■ 北の大崩れ
           (藤色のフィルター編)
神奈川県 横須賀市 秋谷
【最寄】 京急バス 『 長者ヶ崎 』
撮影 2007/04/05 ・ 2007/07/24 ・ 2008/02/16




 夕焼けを見ることは多いのですが、西の空がパーッと藤色にそまるのを見る機会は、なかなか無いですよね…


 それにもめげず、アルファさんの見た「北の大崩れ からの藤色の夕焼け」を求めて、足しげく 長者ヶ崎 に通った、これは、そんな男の記録です(笑)








【 2007/04/05 】


 やや藤色っぽく写っていますが、これは撮影の結果たまたまで、実際はこんな感じの色ではありませんでした。



























【 2007/07/24 】


 夏休みに入ったとはいえ、平日火曜の夕方。

 水着の人もせいぜい4〜5人で、それももう帰り支度です。


 オレンジの太陽が静かに 伊豆半島 の淵に近づき、海水は水色になり、シャワー… シャワー… と、泡立つような音をともなって砂の浜を心地良く行き来しています。

 シルエットですが、江ノ島 もクッキリと見えています。 空気の透明度自体は高そうです。 よく見ると、平塚 あたりのビルの形状すら確認できるほど…

 今日はすばらしい透明度ですね。



 やけに静かだと思ったら、後ろの道路から騒音がほとんど聞こえません。

 行き来する自動車の数も少ない…

 ここしばらく、すぐそばで工事していたため慢性的に渋滞だったこの近辺の国道134号ですが、工事が終わってスイスイと流れてみると、総量としてはこんなにも少ない道路だったのか… と、改めて驚きました。

 道路から一気に10メートル近く標高が下がるため、背後の丘が防音壁の役目をしてくれている面もあるのでしょう。



 海の上にプカリと、1メートル半ほどの流木が浮かんでいます。

 目をこらすと、その上で一休みする、首の長い鳥の姿が…

 夕陽による金色の道と流木が一直線に並ぶ所まで歩いて、撮影してみました。
(写真、上から4番目)



 今日の夕陽は美しいですが、残念ながら地上付近には雲がかかっているようです。 伊豆半島に沈むより先に、夕陽が雲に隠れ始めました。

 残念… 藤色のフィルターは、今日もお預けのようです。



 周りを見れば、夕陽を見ていた10人ほどの人たちもポツポツといなくなって、気づけば自分1人…

 シートを敷いて座り、湘南にズラリと並んだ外灯と、手前の江ノ島を眺めます。


 寝転がって夜空を見上げれば、南の空には月と、木星らしき明るい星。

 西の空でギラリと輝くのは金星のようです。

 月は、こんなにまぶしかったかな…?

 都内に住んでいると、こういう当たり前の感激にすら出会う場面が少なく、寂しいものです。 海面には、月の光がさらさらと砂金のようにゆれていました。

(夕焼け以外の写真4つは、上から純に、「湘南の夜景(中央に江ノ島)」 「北の大峰山」 「長寿ヶ崎にかかる月」 「夜の、長者ヶ崎の横断歩道」 です)








【 2008/02/16 】


 無理だと思っていました。

 朝、三浦海岸 についたとき、頭上はほとんど雲に覆われていましたし…

 昼、頭上はスッキリ晴れてくれましたが、地平線近辺には水蒸気をタップリ含んだ空気が霧のように広がっていました…

 夕方、渋滞を避けてバスを降りて歩き出した途端にスイスイと道が流れだし、30分に1本の「長井〜逗子駅」ルートのバスに置いてけぼりを食らいました。

 トボトボと国道134号線を徒歩で北上しつつ、西へと急速に傾いていくオレンジの太陽を見たときの絶望感は忘れられません…



 だから、まさか今日 出会えるとは思っていなかったのです。

 『藤色のフィルター』 に。



 横須賀市民病院 から出たバスが 長者ヶ崎 に到着し、伊豆半島 の上にまだオレンジの太陽が浮かんでいるのを目撃したとき、自分は奇跡をすら感じました。

 以前までの、土日の国道134号の殺人的な渋滞を知る方なら、秋谷近辺が土曜の夕方にスイスイ通行できた… などと言っても、にわかには信じ難いのではないでしょうか?


 しかし現に今、僕は日の入りに間に合い、長者ヶ崎に立っています。

 これは、思し召し(おぼしめし)です。 ヨコハマの神(どんなだ)が、出会いなさいと言っているのです、「藤色のフィルター」に!



 御意。 来るがよい、藤色の空よ。

 俺はロボットの娘さんのように、おもいっきり見入ってしまうことなく、その姿をこのデジカメに収めることだろう。










 夕日は、伊豆半島の少し上から、オレンジの光をさらさらと投げかけてきます。

 西の空には雲が広がっていますが、よく見ると伊豆半島のすぐ上には空間のようなものができています。

 北西の江ノ島近辺を見渡しても、大きな建物なら識別できるほど…

 空気の透明度自体は高いのでしょう。


 思えば2005年2月に、ここより少し南にある 立石 を撮影したときも、こんな空でした。 今の時期は、遠景の透明度が期待できる期間なのかも。


 雲自体も、僕の好きなメリハリのある積雲に、ベールのような霧雲がかさなり、その彼方にゆったりと眠たげに座る富士

 それは、1枚の完成した絵画を見る思いでした。



 長者ヶ崎の駐車場には10数台ほどの乗用車が停まり、家族連れやカップルが、あるいは丘の端から、あるいは車中から、静かに高度を下げていく冬の夕日を見守っています。


 富士の頭上に、チョコンと乗っかる雲1つ…

 そばにいた女の子が、ご両親に、「帽子みたい 帽子みたい」 と嬉しそうに語っていたのが印象的でした。










 日没までまだ少しだけ時間がありそうなので、南側に行き、カフェアルファ方面を眺める事にしました。 もちろん、ここから黒崎の鼻は見えません。

 向こうから見えないものが、こちらからも見えないのは道理ですね(笑)



 夕日を受けて、東の大崩の丘の斜面の木々が、ピンクとオレンジを混ぜたような色にそまっています。

 突如、キラリと強いオレンジの光が注ぎました。

 冬の太陽は南西に沈むおかげで、駐車場の南端のほうに来れば、岬の左側からも夕日が見えるのです。 位置を調節してパシャリ。

 『ダイヤモンド 北の大崩れ』 の撮影に成功しました(笑)



 そばの自販機で缶のクリームソーダを買い(僕は疲れたときには、不思議とクリームソーダが飲みたくなります)、夕日を眺めると、今まさに半島の後ろに太陽が消えていくところでした。

 沈みきるまでは「本当に隠れつつあるのか?」と思うほど強烈な光を発しているくせに、沈んでしまうと、山脈の輪郭にそって光の線を残すばかり…

 沈む瞬間の夕日というものは、本当に不思議です。



 それにしても、到着から、この日没の瞬間まで、時間にしてわずか20分…

 途中であきらめて歩をゆるめていたら、間に合わなかったんだろうなぁ… と思うと、感慨深いです。











 さて、夕日は沈んでしまいましたが…

 結局今日も、空は藤色にはなりませんでした。



 ガッカリするやら腑に落ちないやらで、ぼんやりしていると…

 後ろのほうにいた20代ほどの女性が お連れさんに話す、「私、この後に空が薄紫色になるのが好き」という声が聞こえてきました。


 そ、そうか。 これから来るのか、藤色のフィルター

 名も知らぬ娘さん…
 物を知らない自分に、貴重なるご助言、感謝の言葉も見つかりません。



 という事で、もうしばし待つ事にしたのですが、先ほどのソーダで体が芯から冷えてきてしまいました。 よーし、ここは1つ、 尾崎豊  芦奈野先生のお言葉に従い、熱い缶コーヒーで暖をとるとしましょう。

 普段はブラック派の自分ですが、甘味がほしいので「微等」をばセレクト。

 で、一口飲んで… 「苦っ!!」

 やはり疲れた体には、もっと糖分高めの飲み物のほうが良かったようですね… カフェオレとか、おしるこ とか…

 半泣きになりながらチビチビやり、おかげで少し体が温まりましたが。



 そんなこんなで、日没から震えて待つこと、やがて30分。

 ふと見上げた空の、夜と夕方の間に、しっとりと薄紫にそまる部分が…


 あ、あ、あれか! あれが、藤色のフィルターか!


 思えば幼い頃から、天気の特に良い夕方には、こういう色の空を見ていたような気がしますが、自分はずっと 「オレンジ→白→青」 だと思い込んでいました。

 その 「白→青」 は、言われてみればたしかに 藤色 に見えます!



 あわてて撮影を開始。

 ところが、撮影したデータを見てみると、空の部分が思ったほど「藤色」になっていません。

 ただ、これはある程度予想していました。

 夕方以降の空は明るさが足りず、露光時間の微調整が難しい一般的なデジカメでは、その色合いを再現するのが困難なのです。



 自分の目には間違いなく藤色に見えているのに、できた写真は青っぽい…

 藤色のフィルターを撮り残す事はできないのか…?

 それともこの色は、私達人間だけが頭の中で勝手に見ているんだろうか…

 ちょっと泣きたくなってきました。








 その時、ひらめきが。

 夕日などを撮るときのテクニック を応用するのです!



 つまり、デジカメが画面中央付近の被写体から露光時間を算出するというのなら、逆にさまざまなものを画面中央にもってきてオートフォーカスしておき、その状態をキープしたまま藤色の空を撮影してみるのです。

 思った通りのフォーカスは難しくても、何10枚も撮れば、あるいは何枚か、「それらしい」ものが撮影できるかも?



 というわけで、空の「青・白・オレンジ」はもちろんの事、夕雲・長者ヶ崎の岩面など、目につくものを片っ端からオートフォーカスしては「藤色」にカメラを向けて撮影撮影撮影… という地道な行為がくり返されました。


 藤色の部分はゆっくりゆっくりと西へ移動していき、15分ほどのショーは足早に幕を下ろし、気づけば伊豆半島の上のオレンジもだいぶ弱くなってきています。

 暗くなってみると、実は富士山、見えている部分の8割方が雪におおわれて真っ白でした。 あれはビックリ。


 「シルエットの江ノ島と 海上に並ぶ街灯」を本日の撮影のシメとし、バス停へ…



 暗く寒い空の下、震えながらバスを待ちました。

 10分ほどしてやってきたバスの明りは、何ともいえず暖かそうに見えました。








 さて、帰宅して写真データを確認してみたところ…

 やはり大半は失敗しておりました。


 が、かろうじて藤色を思わせる空を写し撮ってくれた写真も、何枚か混じっていたのです!

 己の目で見て感じたような、冷たく優しい藤色ではないけれど、7割方それっぽく写っている写真が…



 左が、今回撮影したものの中で最も藤色を表現していると思われる写真です。



 「藤色のフィルター」…  捜し求めて、長くて短かった1年弱。

 日没前後に必ず「長者ヶ崎」を目的地としなければならなかった ここ10回ばかりの三浦旅行は、行動が制限される面も多く、精神的になかなかキツいものがありました。(長者ヶ崎は、京急からのアクセスがちょっと難なのです)


 が、それも今夜で終わりです。

 ついにこの目で、自分の目で、藤色の夕空を見ることができたのだから…



 それ自体は特別めずらしくない現象でも、それを「特定の場所」で目撃することの難しさ… そして、その目撃に成功したときの代えがたい達成感。

 「藤色のフィルター」は、風景を愛でる者の心構えを、あらためて僕に教授してくれた… 今は、そう感じています。


 いや、それは心境を美化しすぎですか。

 「これで俺は自由だぜ、へへんザマヲミ 長者ヶ崎www」、という感覚も、正直少しありますね(笑)



 でも、しばらくブランクが空いても、また必ず訪れることでしょう、長者ヶ崎

 その時はまた、藤色の夕空で僕を迎えてほしい…





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