■ 鎌倉の入江を
   見おろす丘 2
神奈川県 逗子市 浄明寺
【最寄】 京急バス 『 夕陽台公園 』
撮影 2007/04/05 ・ 2007/07/24









 ハイランドをご存知ですか? あそこからも富士が良く見えるんですよ』


 縦長のカートに撮影機材をしまいながら、都内から来たという物腰の柔らかい
おじいさんは、そう言った。



 ここは、『あじさい公園』

 葉山大峰山 の斜面にある小ぢんまりとした公園で、その名のとおり、小さいながらもすみずみまで「あじさい」を楽しめる、かわいらしい場所だ。



 季節は。 4月の平日、時刻はまだ午前10時前だった。

 水色の空が広がり、おだやかな風が流れる、そんなしあわせな春の午前…

 周りには桜の木も多いが、すでに大方が葉桜となっており、緑が目立つ。

 その木々の合間、西の彼方に、まだまだたっぷりと真っ白な雪をかぶった、水色の 富士山 が腰をおろしている。



 おじいさんは、ダイヤモンド富士 を撮りたかったのだそうだ。

 が、この付近からそれが観測できるはずであった昨日は、用事があって来れなかったという。


 「だからせめて、桜の合間から見える富士を撮りに来たのです」 と、おじいさん。

 友人が教えてくれたのだという。



 その桜も、すでにほとんどが葉桜となっている。

 「やはり、南は暖かいからですかねぇ…

  毎年こうなんですか?」


 石のベンチに座って、朝食代わりの菓子パンを食べる僕に、おじいさんはそんなふうに尋ねてきた。



 「あ、いえ、僕も都内住まいなんです。 池袋から来ました。」

 地元の地理に詳しい僕を、おじいさんは地元民だと思ったらしい。


 また、桜とあじさいの合間になる今の時期、この公園は訪れる理由の無い場所ともいえる。 元々、マイナーな名所なのだ。 わざわざ都内から、この公園目指してやって来るというのは、普通は考えられない。


 だから、それに続く おじいさんの、
「どうして、こちら(こんな所に)にいらっしゃったのですか?」
 という疑問は、至極当然だったといえる。



 『10年前の再現』…

 ここは、僕が10年前に初めて三浦半島を訪れたときに偶然立ち寄った場所…

 その旅は、以降の自分の旅の原点ともなった、個人的に非常に思い出深いものだったのだ。


 デジカメを持つようになって3年。

 10年という時間が変えた自分の物の見方、当時感じたさまざまの記憶の再確認を含め、自分自身を深く振り返るために、こうしてやって来ました。



…などと 個人の感傷 を鹿爪らしく語るほど、自分も若くはない。

 初対面のおじいさんに鼻の穴広げてもっともらしく語る自分の姿を一瞬想像して苦笑し、「いやぁ、好きなんです。 ここが…」 とだけ答える。



 おじいさんも、それ以上は聞かない。

 最近、ネットでの若い連中との一方的なコミュニケーションにウンザリしていた自分にとって、お互いがお互いの距離に気を配りつつもそれをサラリとやってのける 大人の会話は久しぶりで、

 「会話って こんなに楽しいものだったかな…」 と、ほんのりとした うれしさが、胸に湧いてきた。


 桜の彼方の富士を撮影し終わり、機材を片付けつつ、「長者ヶ崎」 「立石」 「披露山公園」 「稲村ヶ崎」 など、地元かマニアでなければ分からない撮影ポイントの話を交わす中で、おじいさんの口から出てきたのが、『ハイランド』 だった。



 ハイランド… 正式名称は、『鎌倉逗子ハイランド』

 京急『新逗子』 の北2キロに広がる、巨大な住宅地だ。


 おじいさんは今から、その敷地内にある 『夕陽台公園』 に行くのだという。

 聞けば、そこからは 鎌倉の海 も見えるのだとか!



 「お兄さんも、ぜひ一度行ってみるといいですよ?」と言い残し、カートを引いて坂を下りていくおじいさんを見送りつつ、

『もしかして、その夕陽台公園こそが、自分の探していた「鎌倉の海を見下ろせる広場」では…?』 と、少し興奮している自分がいた。



 10年ぶりに訪れた思い出の公園で、偶然出会ったおじいさんの一言が、気がかりだった謎に終止符を打つ…

 そんな、小説よりも奇なりな、ドラマチックな展開を期待して…






 さて、帰宅してハイランドについて調べ始めたのだが、ここで2つ腑に落ちない点が浮上した。


 1つは、実は自分が以前に一度「ハイランド」を見ていたのを思い出した事。

 といっても直接現地に行ったわけではなく、近くの 『名越切通し』 に向かう途中の、細い山道から見下ろしたのだ。

 見下ろせたということは、ハイランドの町はその丘より低かったことになる。

 しかもその丘は、鎌倉 の海と、ハイランドの間にあるのだ。
 これでは、ハイランドから海が見えるはずがないと思うのだけど…



 そしてもう1つ… 地図で見るかぎり、『夕陽台公園』 は、住宅地の真ん中のせまい平地にある。 これで展望が期待できるのか?

 あのおじいさんは、何を言っていたのだろう?



 そんな不安を抱える僕を乗せて、夏のある日、京急『新逗子』 を出発したバスはハイランドの敷地内を走っていた。

 そして、バス停『夕陽台公園』 に到着。
ここが、おじいさんの言っていた場所なのだが…


 それは正に、一目瞭然だった。

 周りを家々に囲まれた公園からは、はおろか富士すら見えなかった…



 しかし、実はこれは予想の範疇だった。
僕は、街の中心から西へと続く坂道を上りはじめた。

 そして3年ぶりの、「名越切通し」へと続く遊歩道への合流する。

 ここから西は谷になっており、彼方まで広がる丘と、そして天気が良ければおそらく富士も見ることのできる場所なのだ。



 …そうなのだ。 おじいさんは、この場所のことを言っていたのだ。

 「夕陽台公園に行く」 というのは、『バス停「夕陽台公園」で降りて、目的地に行く』 という意味だったのだ。

 おじいさんの説明不足か、僕の聞き間違いか、定かではないが…



 地図を見たときに、3年前の旅の思い出からそれに気がつき、「もしや」と思った自分の予想が当たったのはうれしかったが… やはり前回来たときの記憶どおり、ここからは鎌倉の海を見ることはできない。


 そして、もう1つ残念なのは…

 僕は事前にこの場所を知っていたのに、勘違いから、あの時おじいさんとハイランドの丘の景色を語り合うことができなかった事だ…



 ハイランド! えぇ、以前に一度行ったことがあります。
 あそこからの西に広がる景色、良いですよね〜』


 その言葉を交わすべき、あのおじいさんと会うことは、恐らく2度と無いだろう。


 ハイランドからの景色を「お気に入り」だと言っていた、おじいさん…
その場所の素晴らしさを、語り合ってあげたかった。


 それは小さなミスではあったが、以来、「ハイランド」という単語を聞くたびに、ちょっぴり寂しい心地になる自分がいます。












 以上、長ーい思い出話につきあっていただいてすみません(笑)


 今回の 『鎌倉の入江を見下ろす丘』候補地 は、そんなわけで、「逗子鎌倉ハイランド」の西にある、『展望広場』 です。

 3年前に一度来ている場所で、候補地としては可能性が低いことは分かっていたのですが、上記のおじいさんの件もあり、ついでに訪れて確実に調べておこうと出かけました。


 というのも、この展望広場、ハイランドに隣接しているのです。

 前述の遊歩道はハイランドの西端にあり、展望広場まではそこからほんの200メートル。 同じ敷地といっても過言ではないほどなのです。



 で、肝心の、「ヨコハマ〜 の舞台なのかどうか」 なのですが…

 結果は左の写真のとおり。


 角度も今イチですが、何より手前右の丘がジャマだよー(泣

 海からも遠すぎる気がします。 とほほ、残念…

 地形的には、立入り禁止となっている南側がゆるい上り坂になっていて、漫画内の雰囲気に近いんだけどなぁ…








 あきらめてはいけません。 「手前右の丘」がジャマをしているというなら、むしろ、そここそがモデルとなった場所かもしれないではありませんか。

 実はあの丘、展望広場の西100メートルにある、もう1つの展望所で、『パノラマ台』 と呼ばれている場所なのです。


 展望広場から下り、細い坂道を登って「パノラマ台」に着くと、左の写真のような風景が…  むむむ、まだまだ海が遠いなぁ。 ハズレか…



 まぁ、ここに関しては「それ以前の問題」という気もします。

 というのも、このパノラマ台… とんでもなく狭いのです。

 その狭さたるや、驚くなかれ、幅2メートル・奥行き4メートル。
 自動車1台置いたら(置けたらですが)ギブアップの、ミニ展望台なのです。

 大人4〜5人も入ればギュウギュウ詰め…
「ゴザ敷いて飲み会」など言語道断の場所なんですよね…



 こうして僕の 「鎌倉の入江を見下ろす丘」を探す旅 は続くのでした、ぎゃー。

 (パノラマ台から南を眺めた写真も載せておきます。
 中央が逗子海岸、少し右に披露山公園の丘が見えています。)









 「ヨコハマ〜」には直接関係無い場所ですが、林と、静かな展望台はなかなかに魅力です。 興味があれば、以下のアクセス方法をご覧下さい。


 京急『新逗子』 から、20分に1本ペースで出ている 『ハイランド循環』 というバスに乗ります。

 変な名前ですが、これはハイランドに「バスを大量に停めておくスペース」が無く、新逗子駅を発車したバスがハイランドをぐるりと周り、そのまま駅に戻ってくるコースを取るためです。


 ハイランド内の バス停『夕陽台公園』 で下車し、西へ500メートル坂を登れば、やがてハイランドの西端に到着。

 そこから南に200メートルほどで現地に到着します。



 2つの展望所への道は林の中で、カーブしているため、ちょっと迷うかも?

 途中にある地図を頭にたたきこんで進みましょう。





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