■ A(アルファ)タイプの歴史



★作品中で登場するロボット、あるいはその開発系統にある物がAタイプと呼ばれていることは皆さんもご存知と思います。

 同時に、LP盤(レコード)である『A2』から、アルファさんたち『A7』までの開発過程がナゾになっている点も、今さら確認するまでもない周知の事実ですね。

 これは、作中で唯一「Aタイプ」開発の経歴をもつ人物である子海石先生が一時期開発から遠のいていたため、読者に与えられる情報もそこ止まり… というのが理由です。
 また、「A7」以前の「A6」「A5」などについては、子海石先生自身も『たぶん、楽しい話ばかりじゃない…』と話していることから、開発関係者が故意に隠蔽せざるを得ない内容であったことは想像に難くありません。

 このミッシングリンクを、作中で語られた断片的な情報から想像をまじえてつなげていく楽しみも「ヨコハマ〜」の魅力の1つですが…
 今日はそこをジックリ考察してみようと思います。





★まずは基本として、判明している「Aタイプ」について復習してみましょう。

A2
LP盤(レコード)に記録された音声データ
M1からM4までが収録されている。

(Mは「モデル」「マーク」を意味すると思われる。)

A7M1
アルファー室長と呼ばれ、
高高度を周回しつづけるターポン内部で、
その制御を担当している。

誕生後一時期、子海石先生のもとで生活を共にしている。
(教育目的と思われる)

初期段階において、
小網代の入江に住むミサゴとの性格的共通点が見られるが、
基本的な教育を受けた後は振るまい・外見ともに人間と近似で、
一般人がロボットと識別することは困難なほど。

A7M2
「A7M1」を元にした量産試作体
「M1」ですでにほぼ完成の感があり、
「M2」になっても外見的変化は皆無。

3体が作られ、うち1体は、
初瀬野アルファとして西の岬でカフェを経営。

他2体については不明。

A7M3
「A7M2」を元にした量産体で、夕凪の時代で
「ロボットの人」と呼ばれる存在は、基本的に彼らをさす。

作中では、ココネマルコナイなどが登場。






★さて、ここでミサゴという存在についてもふれておきましょう。

  当初からその超越した身体能力で「ロボットに間違いなし」と踏んでいた読者に釘をさすかのように、『ミサゴのほうが(ロボットの人より)何十年か古い』とのアヤセの発言が、第87話で出ています。

 僕自身もこれを読んで、「ふーん、じゃあミサゴはまた別の理由で生まれてきた生物なのか…」ぐらいに考えてしまっていたのですが…



★そんなある日の2007年1月…
 「見沼入江」の『水神様の社』のモデル地を探そうと大宮公園をブラブラしていた僕に、1つの閃きがありました。

 それは、『ミサゴはロボットではないかもしれないが… 本当にAタイプとは無関係なのか?』という疑問でした。 つまり、ロボットではないが、A7開発におけるステップとして存在した生物ではないか? と気づいたのです。

 ロボットの系譜から外すには、ミサゴの性格的特徴が、教育期のアルファー室長のそれと酷似している点もヒントの1つでしたが…
 今回、今まであまり意識していなかった水神さまのことをジックリ考えながら歩いていたことで、うまくインスピレーションを受けたようです。

 その結果が、以下の『Aタイプの歴史』です。

 『作中の不思議な代物は、全てAシリーズの開発結果』だとしたら、どうか? という思い付きをまとめた物ですが、我ながらツジツマがあっているようで自己満足しています(笑)
 僕個人の脳内補完のために、原作を逸脱した要素も幾分含まれてはおりますが、それも許容の上で楽しんでいただければ幸いです。








A1
『ヒト思考のデータ化』を目指すも成果を見ずに頓挫した、
初期の一連のプロジェクトを指して、
後年、関係者の間でA1と称されるようになる。

実験と称して東京湾を高速水上艇で横断するなど、
今となっては不可解な行為も見受けられたが、
そもそも何がロボット開発の正道か
スタッフが模索する段階が当時の実情であったことを考慮すれば、
微笑ましい失敗談の1つと許容できる面もある。


プロジェクトが中断された原因については、
プロジェクト自体の問題云々というより、
むしろ大高潮などに見られる海面上昇の危機感から、
人々が『早期の目に見える成果』を渇望した事が
直接原因と見る向きが強い。


A2


A1の奔放で手広すぎる実験に対する開発当局の反省から、
『目に見える成果』として急遽製作されたのが
A2と名付けられたレコード盤
4トラックが収録され、各トラックを便宜上「M」と称している。

全ての現象の根源を振動で説明する『超弦理論』に基づき、
(20世紀後期に発表された学説で、「超ひも理論」とも呼ばれる)
生物の体内活動に共通して見られる基本的なリズムパターンを、
空気の振動であるとして具現化された物。

ロボットという新たな生命を産むための、
宇宙レベルの原点回帰の意味合いを持つ。


…という説明は、政府・一般人に対するブラフ
正体は、当時関連の深かった音楽大学の協力を得て研究した、
『最大公約数的に、人間に安心感を与えやすいリズムパターン』
を収録しただけの代物。

当局のこのような詐欺まがいの行為は、政府サイドが
「実験のための実験」の重要性に無理解であったことに起因し、
結果的に「A7」の量産までこぎつけた不断の努力は
歴史的に評価されるべきだとする考えが、現在において一般的である。
(批判が無いわけではない)

当時、開発に関わる政府関係者・研究員などに記念として配られている。
事実を知らぬまま、地元図書館に寄贈するケースや、
今でも大切に保管し続ける関係者もあるという。 


A3


『人間を直接に模倣するロボット開発』に限界を感じた当局は、
より原始的な構造の『植物』に活路を求める。

植物に関するバイオテクノロジーの研究土台は20世紀においてすでにあり、
その延長の模索の容易さはA1の比ではなかった、
とは当時の関係者による後年の弁。

A4以降にも引き継がれる植物研究のうち、従来の植物の外観
(「大きさ」除く)
を留めている一連の研究成果がA3と称されている。


左写真はその1つで、一般に『パワーヒマワリ』と呼ばれている種。
全長は6〜7メートル、花部分は2メートル近くに成長する。(個体差あり)

A3の研究は、このように『DNA中の、成長サイズに関する
リミッターの無効化』
を主とし、今でも一般的になじみのある、
直径30センチ近いが、食卓に上るようになったのもこの頃。

年配者に「昔は手のひらに乗るぐらい小さかった」と聞かされて、
驚いた記憶をお持ちの方も多いことだろう。

これらの研究成果は、海面上昇による農耕地の減少にともなう
食糧難を危惧する当時の民衆に、喝采をもって迎えられた。



しかし、冷静に考えれば、「従来の20倍の体積を持つ植物」の育成には
当然、『従来の20倍の滋養』が必要であり、
食料問題に関しては、実は何ら前進を見ない研究であった。

にも関わらず非難の声が挙がらなかったのは、
単位面積における収穫量が従来のそれを上回っていたため。

これは研究の成果ではなく、地面の滋養が年々上昇していた
(地球環境が、植物・昆虫に適したものに変化しつつあった)
事が原因と、後年判明。

地球が人類にとって生きづらい環境に
遷移しつつあることの証明でもあった。


なお、A3の懸念の1つに、『植物を相似に巨大化させた場合の、
重量に対する脆弱性』
があったが…
交配研究や、植物自体の迅速な適応(幹が太くなる・全長が低くなる、など)
によって、半世紀を待たずに一般化したことはご周知の通り。


A4


植物とヒトの融合からロボット開発の活路を見出すステップとして
研究開発されたのが、俗に街灯植物と呼ばれている、
生体発光を行う細長い樹木。

これら人工植物として結実した研究成果の数々を、A4と総称する。

地中から吸い上げる水に含まれた少量の栄養分にも関わらず、
高能率のエネルギー変換による発光を実現、
後のロボット開発の重大な礎となる。



街灯という体裁が取られた経緯には、
エネルギー変換効率が視覚的に分かりやすい点、
人々の生活圏にロボット研究の実績をフィードバックすることによる
開発業務のイメージアップという意味合いに加え…

が生物(この場合は民衆)に与える「幻想性・高揚感」までも考慮した
苦肉の世論囲い込み作戦であったと、関係者が後に明かしている。

研究者たちの努力は、A5以降の研究開発における予算獲得
予想以上に功を奏し、今日我々が普通に街中で見かける
A7M3の量産時代を迎えるわけだが…
その過程は、まだまだ困難の連続(後述)であった。


A4を境に後、『最初から人間レベルの思考を持つロボット』ではなく、
外見的にヒトに近い生物(高い永続性を備えた)を生み出し、
それを教育することで「ヒトに代わる者」とする
開発方針が固定されていくが…

同時にそれは、既存の倫理との部分的対立の歴史の幕開けでもあった。


A5


人間の上半身がゆるやかに凝固したような姿を持つが、
身体的にはむしろ植物に近い、A4A6をつなぐ生物。
それが、A5である。

外観の永続性と脳波を持つが、
地面から生えた体には歩行能力が無く、会話も行わない
「脳波がある」ことと「思考を持つ」ことはイコールでは無く、
俗にいう「サボテンの脳波」と同レベルと解釈できる。

一方で、A5の群生する地域住民から
「始終なにかの気配が漂っていて気味が悪い」との報告もあり、
低いながらも知能を備えている可能性を指摘する声もある。



成長過程としては…
まず地中で種のような状態から発芽し、地面を軽く盛り上げる。
『石灰の山』のように見える。

次に、地上に姿を出す。
この時点ではまだ人の姿にほど遠く
『白いキノコ』のような特殊な形状を持つ。

成体になるにしたがい、人間(個体により差異あり)を思わせる外観となる。
体が白いわたのようなもので覆われ、細かい起毛を持つあたりに、
植物としての特性の名残が見受けられる。



当時、ヒトの外見を持ち脳波もあることから、人権団体のやりだまにあがり、
討議の結果、A5全サンプルを山中に廃棄 (団体側は「開放」と呼称)
することで決着。(解体案は、人道的見地から不適切とされ却下)

しかし、研究結果は水面下で内密に保持され、
「A6」以降の実績へと継がれていく。

廃棄された植物たちは後年、『白いビル』のように見えるコロニーを形成し、
少しずつではあるが生息範囲を広げつつ今に至る。



成長には地中に潤沢な水が不可欠で、確認されている成体
(その不思議な外観から「水神さま」と称される例あり)
水辺に集中しているのはこのため。

もちろん水辺以外(山中など)でも生息可能だが、成長が著しく遅延し、
50年程度ではせいぜい『石灰の山』に育つのが限界と推測されるが…
まれに例外も見られ、別の成長要素を指摘する意見も出始めている。

(「地面」が記憶している生物の姿が形となる、との説もあるが、
説と呼ぶにはあまりにメルヘンじみており、批判の声も多い。
無機物が「記憶」するプロセスも未解明で、
現在はトンデモ説の部類と見る向きが一般的。)



A6


A5の実績をもとに、『人間並の思考』(幼年レベルではあるが)と、
『自立歩行』を備えた生物。 それがA6である。

外見的にはヒトに酷似で、歯の形状などに若干の相違が見られる程度。
陸地の大半が水没した後の地球での利便性までも考慮し、
高い運動能力を備えて開発されるが、皮肉にも、この高すぎる身体能力から
『現存するヒトとの共生に関する危惧』の面で、政府から物言いがつく。

幾度かの議論の場が設けられるも、
A1同様、研究の即時中断が決定。

生産されたA6の全サンプル(生産総数は不明)解体処分となる。
(個体の身体能力の高さもあり、廃棄では不十分、との政府判断から。)



ところが後に、全廃されたはずの「A6」三浦半島南部の湾
1体のみ生存していることが確認され、大問題となる。
(地元住民の一部に、A6を「ミサゴ」と称するケースあり)

開発関係者が、サンプルの解体が忍びなく
内密に逃走させたとの疑いが強い。


地元住民が呼ぶミサゴという名称が、
A1時代に使用された実験用水上艇のそれと同一との情報もあり、
その時代から引き続き開発に関わった者の犯行の可能性が高いが…

その名称自体、現地にも生息する鳥の名前であるため、
あくまで推測の域にとどまる。

『事件からすでに30年以上が経過している事』
『A7シリーズの安定した量産体制の確立』
『逃走したA6によると思しき事件報告が現地において皆無であること』
などから、例え犯人が判明しても
法的措置がとられる事は無いとの見方が強い。


この件について、「直ちにA6を回収・処分すべし」との
一部関係者の意見に対し、現開発局長は
『30年以上現地に生息するにも関わらず問題に発展しない事実から、
対象の処分の重要度は極めて低い』
とコメント。

「現地警察からの通報如何では、速やかに対処したい」との考えも
合わせて表明してはいるが、その職務怠慢・地方軽視とも取れる姿勢に、
一部から非難の声もあがっている。

「元々キャリア組ではない、造船部署あがりの現局長には、
地方を含めた大局的な物の見方ができないのでは?」

との、皮肉も聞かれるという。







★これを書き終わって、ネットで調べてみたら、部分的に僕と同様の意見をお持ちの方が結構いらっしゃいました。

 上の表があながち見当違いで無いことにホッとしたり、連載途中でそこまで推理した先人に敬服したり…

 この資料が、皆さんの心の「ヨコハマ」を深める手助けになれば… と思います。


                                     2007/01/29 執筆





★ただ、最終話を読む限りでは、「水神さま」はやはり記憶媒体だったと考えるべきかもしれませんね。

 皆さんの意見も、機会があればお聞かせ下さい。


                                     2007/05/05 追記





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