■ 背景のマストを追って…







2009年11月に、「OVA第2期・2巻のパッケージのココネの背後に、
戦艦三笠のマストらしきものが描かれている」
という話を
載せたことを憶えておいでの方も多いかと存じますけど、憶えてるよね?(笑)


さて、あれから少しばかり時が流れて、2010年の1月

「艦船関係に詳しいヨコハマファンの方の続報を待つ」
という形で保留になっていた当件に、
意外な方向からの情報提供がありました。



お相手はなんと、現役海上自衛隊員のHさん。

『背景のマストは、「かぜ」級DDGの
メインマスト頂部ではないでしょうか?』
とのお話。


か、「かぜ級」 !?  「DDG」 !???

突然の専門用語に、吃驚(びっくり)仰天の自分。

以下に、Hさんのメールの一部を抜粋させていただきます。




EW(電子戦)用空中線(アンテナ)の形状と配置がほぼそのまま描かれていることから、
「たちかぜ」型DDG「たちかぜ」又は「さわかぜ」
「はたかぜ」型DDG「はたかぜ」のいずれかと推察されます。

これら三隻のうち、「はたかぜ」は
JR横須賀駅近傍の吉倉(よしくら)岸壁 に係留されています。

「たちかぜ」は船越(ふなこし)地区の岸壁においてEF(護衛艦隊)旗艦を
務めていましたが、平成19年に佐世保から転籍された「さわかぜ」に
その任務を引き継ぎ、除籍され廃艦になりました。

ジャケットが描かれた時期からしますと
「たちかぜ」又は「はたかぜ」を意識して描かれたものではないかと思われます。


ちなみに私はちょうど10年前、佐世保
「さわかぜ」に電子整備員として乗り組んでいた際に、
件のメインマスト頂部に登り錆打ちや塗装作業をやっていました。




こ、これは凄い…  現場の声です。


ここに至って、自分は腹を決めました


先送りにしていた「マスト形状の調査」を今日1日かけてやってしまおう、と。

日本の艦船について調べまくってみよう、と。



パッケに描かれている艦船が海自の艦船である可能性は100%ではないですが、
ミリタリー系にふと造詣をのぞかせる芦奈野先生のお人柄を考えると、
その確率はかなり高いと考えてもおかしくはないはず。


また、思えば自衛隊艦船は、
今日もわれわれ日本国民を、外敵から守るために働いて下さっている船…

それについての知識が全く無い自分は、
30代の大人の日本国民としてどうよ?

そんな数々の想いが交差して、
自分は急遽ウィキペディアへと飛んだのです。


今回は、「ヨコハマ」関連でありながら船のお話オンリーです。
アルファさんの笑顔も、ココネの微笑みもありゃしねぇ。
海の男に女はいらぬ。
興味が無ぇ奴は、ここでUターンしやがれ。






…なんか、半分近くのお客さんがブラウザの「戻る」ボタンを押した気配ですが、
残った男気あふるる皆様だけ、しばし海の男の物語にお付きあい下せえ。








さて、まずは、これから我々が探すべき『背景のマスト』について、
パッケージから得られるだけの情報をまとめておきましょう。

艦船写真を集めるうちに気がついたものもありますので、
普通の人(例えば調査を始める前の自分)では
気がつきようのないポイントも混じっていますが、ご了承ください(笑)




■ポイント1 『2つの何か』

  レーダー板か、マスト途中の足場かは分かりませんが、
  とにかく大小2つの何かが、マストの中間と最上部にあります。


■ポイント2 『支柱の特徴』

  下半分は太く、上半分は少し細いようです。


■ポイント3 『土台の特徴』

  水面すぐの所に出ているものが必ずしも「土台」とは限りませんが、
  2段階に幅が広がる何かが確認できます。


■ポイント4 『必ずしも最上部とは限らない』

  ヨコハマ世界に存在するものは、基本的に20〜21世紀の遺物なので、
  劣化・破損がありえます。

  このパッケージのマストも、必ずしも最上段とは限りません。
  ここより上にあったものがポッキリ折れて無くなっているかもしれませんから、
  これと完全に同一形状のマスト・レーダーを探しているだけでは
  モデルになった艦が見つからない可能性があります。


■ポイント5 『煙突(排気筒)が無い・低い?』

  単に、位置的にイラストの右外に出てしまったりココネの背後に隠れて
  しまっているだけかもしれませんが、この船には煙突が見当たりません

  だとすれば、かなり現代の…
  つまり、第二次世界大戦あたり以降に造られた船である可能性が高そう…

  少なくとも、マスト近辺に、マストに匹敵するほどの高さの煙突を
  持たない船
である事は確かなようですね。


■ポイント6 『この船は真正面・真横ではない?』

  これはあくまで僕の「感じ」なのですが、マストからのびるケーブルと、
  イラストの左右の端付近にあるそれぞれの柱(船のものだと思います)の
  太さからして、船全体が岸に対してナナメになっているように思うのです。

  正確には、イラスト左のほうが近く、右に行くほど奥になっている
  そんな風に感じています。

  だとしたら、マスト(レーダー)の見え方もそのように変化しているはず。
  単純な横幅の比率だけで比較するわけにはいかないという事です。


■ポイント7 『おそらく、DVD1巻イラストとも関連がある』

  あくまで予想ですが、DVD1巻と2巻のパッケージには、
  何らかの関連がある
と見ています。

  つまり例えば、1巻の背景の電柱のように見えるものも艦船の一部で、
  1・2巻とも実は同じ船の、別の箇所を描写したものだとか…

  アルファさん(A7M2)とココネ(A7M3)の型番や経緯に関連させて、
  1巻のイラストの艦の後継が、2巻のイラストの艦だとか…

  前者は神奈川県に、後者は東京都に関連している艦だとか…

  いずれにしろ、片方のモデルが分かれば、
  そこからもう片方が推測できると考えています。


  あくまで予想ですが(笑)






以上を考慮しつつまず調査したのは、当然ながらDDG
つまり、『ミサイル護衛艦』です。


DDG-168 『たちかぜ』
DDG-170 『さわかぜ』
DDG-171 『はたかぜ』


Hさんに教えていただいたこの3隻に関して、
ネット上から画像を集めまくります。

といっても、レーダーマストの形状の判別が重要ですから、
当然その部位をアップで確認できるものに限られ、
資料集めにも骨が折れますが…(笑)


画像資料を集めつつも、
「へ〜、「たちかぜ」と自分はほとんど同い年なのか」とか
「日本の艦船は、鋭角的な美しさにおいて他国のそれより上だよな〜」とか
少しずつ軍艦への興味が湧きつつある自分に気がついたりも(笑)



さて、そんなこんなで、ある程度資料が集まって、
レーダー形状の傾向のようなものが見えてきました。

ただ、それと同時に、
ちょっと困った事実が浮上してきたのです。




  

(左から、『DDG-168 たちかぜ』、『DDG-170 さわかぜ』、『DDG-171 はたかぜ』のレーダー部です)



…お気づきでしょうか?

昨今の日本の軍艦のレーダーは、
何本もの柱によって四角錐にやぐらが組まれ、
そこに各種レーダーが設置されている…


その形状から「電気イカ」などと呼ばれている送電鉄塔
近い形状… といえば、イメージしやすいでしょうか?


問題は、そのせいで、
先述の『ポイント3 土台の特徴』と一致しないのです。


もちろん、細い柱が劣化して取れてしまった後の姿が、
パッケージイラストのマストかもしれませんが、
よく見るとお気づきの通り、組まれた柱は四角錐

基本的に、中心に支柱は無いのです。



ただ、そんな中で、『DDG-171 はたかぜ』だけは、
上記の写真の黒い鉄板の裏に、真中を貫く支柱を持っています

かつ、登頂付近に「たちかぜ」「さわかぜ」のような
左右に大きく突き出る箇所
つまり、パッケージイラストとの
極端な違いにつながる部位もありません。


「はたかぜ」のレーダーマストが、
支柱を取り巻く細い柱たちだけ将来劣化してボロリボロリとはがれ、
支柱のみを残す形となれば、かなり近い姿になるのではないでしょうか?



その意味、Wikipediaで確認できる「かぜ」級の中では、
最もパッケージイラストに近い艦なのでは?と見ています。



Hさん、貴重な情報をありがとうございます。

提供いただいた情報の中では、どうやら『はたかぜ』
将来、一番イラストに近くなる可能性を秘めているようです。

この結論には、僕1人の知識では、
決して至ることはできなかったでしょう。


ここに至る道しるべを示してくださった事…

そして、僕に軍艦の美しさを知るキッカケを与えてくださった事を、
この場を借りてお礼申し上げたいと思います。

ありがとうございました!





(写真は、『DDG-170 さわかぜ』)








さて、調査から5時間ほどをかけて、
「かぜ」級の中では『DDG-171 はたかぜ』と、
そしてほぼ同期である『DDG-172 しまかぜ』が、
イラストのモデルとなった艦である可能性が高い
ことが分かりました。


とはいえ、道はまだ半ば


上記の結論が、あくまで
『劣化したサブの支柱が全てきれいに剥がれ落ちる事』
を前提にしていることももちろんですが…


レーダー形状が短期間で極端に変わらない以上、
この前後に造られた艦にも似たもの

というより、よりパッケージイラストに近い艦
存在する可能性があるわけです。



というわけで、当然の流れで、
「172」以降のDDGについて調査を開始しました。



ここで、ひじょうに面白い事実にぶつかりました。

『DDG-173 こんごう』以降の護衛艦は、
レーダーマストの形状が変わっているのです。






上は、「こんごう」のレーダーですが、
「はたかぜ」のような多段やぐらではなく、
四角錐の上に円盤状の足場が置かれ、
その上に1本だけ柱がのびている構造
がお分かりでしょうか?


これは、以降の、
『DDG-174 きりしま』
『DDG-175 みょうこう』
『DDG-176 ちょうかい』

へと引き継がれ…



『DDG-177 あたご』を境に、やぐらではなく、
外装を持った土台へと変化していくのです。




つまり、「こんごう」以降の現代護衛艦は、
おそらく、2巻のパッケージイラストのモデルでは無い
のです。








未来がダメなら、次は過去です。

DDGではありませんが(DDGは一番古いもので163止まりです)
各種護衛艦を番号にしたがってドンドン過去にさかのぼります。


Wikipediaのリンクをバンバン辿り、
写真のある艦船のマストを見比べます。


写真が無ければ、艦名とナンバーを元に、
Googleで画像検索します。


出てくる膨大な画像の中から、
マスト付近が鮮明な写真を掲載しているサイトへ飛びます。


そのサイトに載っている他の艦船の写真の中に、
艦の種別はともかく、マストが明確になっていそうな
サムネイルがあれば、片っ端からクリックします。


軽い気持ちで溜め出した資料映像のフォルダが膨れ上がり、
『艦船マスト歴史資料』のようなイヤな貫禄がただよいはじめました。


のべ作業時間が10時間を超えたあたりから、
さすがに頭がクラクラして気分が悪くなってきました


護衛艦ばかり調べてもなぁ…
と、よせばいいのに当たり前の事に気づいてしまい
見れる範囲で戦艦巡洋艦にも手を出しました。


きづけば調査範囲が外国にまで広がりつつありました。


船体構造や装飾を見て、その船がどこの国の何年ごろのものかの
当たりをつけられるようになっている自分に気づき、
うれしいような不気味なような心地になりました。


「米国軍艦は見た目の威圧感ばかりに力が行って、
船体としての美しさに欠ける…」
「ブリテンの客船の横柄な威圧感は好きになれんな…」

などとアゴをさすって品評している自分に気がついて、
あわてて本作業に戻ったりしました。


トイレと食事以外の時間はディスプレイにはりついて、
マストばかり眺め続けている自分は何者なんだろう?
と考え、ふと死にたくなりました。


軽く数100本… 下手したら500近いマストの画像を見ている自分は、
きっとこの瞬間において「マストの画像閲覧者の世界チャンピオン」だな、
と、何の社会的地位も無いチャンピオンの称号に
薄ら笑いを浮かべたりしました。


のべ作業時間が15時間に至る頃には、
「もうマストはイヤだーー、出してくれーー、
減量はやめだーー、お嬢さんお気持ちだけいただいときますーー」

とわめき、だいぶ脳が危険な状態に陥りました。



そんなこんなで最後にはほとんど廃人と化した僕ですが、
のべ所要時間「15時間」、推定閲覧マスト画像「500枚」という
地獄の調査を終えて、それなりの結論に達しました。




★あのマストは、『DDG-171 はたかぜ』の時期の
日本艦船のレーダーマストが劣化して、
支柱だけになったものである可能性が高い。



(画像は、DDG-171 はたかぜ



そして、



1900年前後のフランスの艦船に、
大小2段構造の足場を持つマストがよく見られる。

足場より上の部分が折れたのだとすれば、
形状的にイラストにかなり近い状態になる。



(画像は、フランスの艦船 Bouvines



さらに、



★OVA1巻のパッケージの、
アルファさんの背後に見えている電柱のような物は、
『DDG-173 こんごう』〜『DDG-176 ちょうかい』
使用されている、
「柱のようなものが1本だけのびているレーダー」
に似ています。

もしアレがそうだとすれば、
それぞれの艦の造船時期も近く、
かなり高い関連性が期待できそうです。


…というか当初は、
「A7M2」だから『DDG-172 しまかぜ』
「A7M3」だから『DDG-173 こんごう』
のレーダーなのではないか?

と思いながらこの調査を開始していたのです。

でも、今回のデータからすると、逆ですよね。
「A7M2が、GGD-173」
「A7M3が、GGD-172」
(笑)



(画像は、GGD-173 こんごう のレーダー)




以上3点が、今回の収穫です!








艦船の歴史は長く、マストの形状も
それこそ星の数ほどあるとは予想していましたが、
いやはや、大変でした。

結局、結論には至れませんでしたが、
上記3点の傾向を見い出せただけでも良しとしたいところです。

というか、当分マストは見たくないよ(泣)



とはいえ、Hさんの情報を元にある程度のしぼりこみができた事と、
終わってみればたしかにHさんの推してくれた『DDG-171 はたかぜ』
一番確率が高そうな結論に至れた事… それがうれしかったです。



もちろん、これは現時点での中間的な結論にすぎません。

このマスト問題に決着をつけるヨコハマファンは、現れるのか?
現れるのだとしたら、それは誰なのか?



浜の真砂は尽きるとも、
ヨコハマの謎は尽きることなし。


皆さまからの追加情報を、
当サイトは心から待ちつづけております。




執筆 2010/02/04



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