■ あなたは初瀬野先生の
素顔を見ている









『初瀬野先生』


「ヨコハマ〜」読者なら知らぬ者はいない、
アルファさんのオーナーです。



アルファさんが人間的な生活を学習していく過程で
大きな役割を担ったと思しき過去…

謎の生命を追い続けるアヤセとの面識があり、
その際の利便性をはかれるほどの
社会的地位や信頼性を垣間見せるこの人物は、

物語の中核的存在でありながら、
ついにその姿を読者の前に出さぬまま幕を閉じた、
稀有な存在です。




『その姿を 読者の前に出さぬまま』…?



…本当にそうでしょうか?




一見あっさりと描かれている「ヨコハマ〜」は、

例えば アルファ・シリーズの謎 に見られるように、
直接の解説がなされていなくても、隅々まで味わうことで

実は作者さんから結構な量の情報提供を受けていたことに
後になって気づかされる場合が多々ある漫画です。




実は僕たちは、芦奈野先生にまんまとかつがれていた…

よくよく読み返してみれば、
こんなに呆気なく初瀬野先生の素顔が描かれていた…


そうでないと、誰が断言できましょう。









そこに考え至った僕は、

以下の点に考慮しつつ、
改めて全14巻の登場人物全員を検証してみました。



初瀬野先生自身はある程度の年齢を経ていると考えられるため、
  推定年齢30歳以上の人物に限る。 ただし、男女は問わない。


アルファさん自身はオーナーの顔を知っているので、
彼女が直接会った人物は全員除外。


アヤセも面識があるので、同様に、彼と直接会った人物は除外。


・第0話で、先生がアルファさんに直筆のメモを残した事から、
 ターポンの搭乗者も除外。





当作が、アルファさんの生活を基盤に物語が進むため、
あれだけ登場人物がいながら、
すごい勢いで該当者が減っていき…

途中で不安になったりしました。



登場回数の頻度から、ココネのみが会っている人物に
該当者が多そうな気がしますが…

アルファさんがムサシノの国に泊まりに出かけた際に、
結構ココネ関連の人物(大家さん・辻の茶の店員)に
会ってしまっているので、さらに数が減ってしまったりも…





…しかし終わってみれば、

そこには 5人 の該当者が残っていたのです。



アルファさんに会わぬまま、

初瀬野先生はどのような日々
過ごしていたのでしょうか?


そして、本当にアルファさんとは会っていなかったのでしょうか?



その全てが明かされる日が、ついに来たのです。

ご覧下さい、「ヨコハマ〜」屈指の謎が解明される瞬間。



 あなたは今宵、歴史の証人となるっ。












『ムサシノ運送のトラック運転手』 (1巻・139ページ)



ロボット開発の第一線を退き、
今はしがないトラックの運ちゃんを営む、初瀬野先生…





自分の営業所から発送したカメラを、
別営業所のココネを通して届けさせる二度手間ぶりは、
「楽しんでいる」 としか思えない不可解さ。


仕事が「せっぱつまって」なければ、
第1巻にしてアルファさんと先生の再会
果たされていたであろうに、

人生のドラマは、いつも紙一重ですね。








『荻モーター主人』 (13巻・132ページ)



ロボット開発の第一線を退き、
今はバイク屋として
趣味と実益を兼ねる、初瀬野先生…





ロボット開発の現場経験から、
筋肉モーターの扱いはお手のもの。

「筋肉モーターはココネさんと近い所あるわけだしなあ…」
などとお客と会話しつつ、

ふと脳裏に浮かぶのは、三浦で暮らす娘の姿…








『砧(きぬた)児童館の管理人』 (6巻・55ページ)



ロボット開発の第一線を退き、
今は公務関係で児童館の管理人に従事する、初瀬野先生…





レコードが持ち出し禁止と聞きガッカリしてうつむく
そんな情熱を見せるココネに、 萌え萌え になってるあたり、

今まで僕らが積み上げた紳士的な初瀬野先生のイメージを
破壊するに充分なイムパクトですが、現実は時に非情なもの…


僕らがなすべきは、
目の前のモノ(現実)を ちゃんと見ることです。








『太公望2人』 (5巻・158ページ)



「ちょっと信じられないでしょうが、この先に喫茶店があるのですよ」


「こんなススキ野原の中にですか」


「そこにですね、私の…」


「私の?」



「娘が… 住んでおります」






「お嬢さんが… お1人で?」


「最後に会ってからもう何年も経っておりますから、だいぶ成長…
いやいや、見た目は変わらないのですが、ね。 ははははは…」



「ははぁ…?」



「1つだけハッキリと言えることは、清楚。
父の私の欲目ではなく、娘は清楚という言葉を
そのまま宿したような少女でありました。」



「それは昨今マレな良いお嬢さんですな…」


「それをあなたに実感していただきたく、
こうして釣りがてらお誘いした次第です。

さあ、あれが娘が営む喫茶店でありま…」








「………」



「地面で寝転がっている女の子がおりますな…」

「………」





「なにやら夢見て、不敵に微笑んでますな…」

「………」



「あれは… 初瀬野さんのお嬢さん… でしょうか?」


「………ははははははははは いやいやいやいや
なんですか娘はどうも豆の買い出しにでも出ているようで、
あのように訪ねて来た友人が、えぇアレは娘の友人、あくまで友人でして、
いやまさかそんな娘本人などとこれはきつい冗談、
娘を待つ時間をもてあましてあのように地面にゴロリとは
全く清楚からかけ離れること万里のごとく、
せめて娘との付き合いの日々から清楚の何たるかを
カケラほどでも学んでほしいものですな」




「それでは我々も、お嬢さんが帰るまでここで待つという事で…」


「いやいやいや、今日会わずとて娘が消えて無くなるわけではありません。
それよりもホラ、釣り! 私どもの本日の本目的は釣りではありませんかっ。
ここは海辺ですがガケになってますから、釣りには全く向かんのです。
入江に戻りましょう入江。 ご存知ですか小網代?
入れ食いのポイントをご紹介しましょう。
あそこにはミサゴという、いや鳥ではなくですね、
可愛らしい女の子が現れることがありましてですね、
いや私も子供のころ会ったきりなんですがこれがワハハハハハ…」







なんと、アルファさん本人は眠っていて気付かなかったが、
初瀬野先生は娘との再会を果たしていたわけですね。

作者である芦奈野先生の「してやったり」の声が聞こえてくる思いです。



後日、カフェアルファの扉に
メモ書きが貼り付けてあったのは、皆さんの知るとおりです。



『アルファへ  元気すぎるようで安心しました(泣)』





★以上、期待してお読みになったあなた、すみませんでした。(笑)

 最初は本気で初瀬野先生探しをしていたのですが、どうしても見つからなくて、
その際に集めたデータを何とか利用できないか? と思って、ひらめいたのが
この企画だったのです。

 バカバカしい考察も、突き詰めると1つのコンテンツになったりするあたり
人生は本当に面白いですね(笑)
 昔からのコアなファンの皆さんにも、笑って読み流していただければ幸いです。

 それでは〜。

                                     2007/06/15





★後日、R.一郎さんからご指摘がありました。

『第48話の、外灯の下の船で飲み会をしていた2人は入らないのですか?』、と…

うわー! 言われてみればそうだぁぁ!
なんでコレを抜かしちゃったかな自分??



 たしか、「地元方言が強く、113話の標準語を話している初瀬野先生と矛盾する」といった理由で保留にしたか、ギャグに組み込めないので別の機会にと保留にしたかで、そのまま失念してしまった… だったように記憶しているのですが、我ながらこれはショックでした。 取り急ぎ、ここにお詫びいたします。

 しかし、こうして見ると、ある意味最も初瀬野先生の可能性が高いのは、この船上の2人と言えますね。

                                     2007/10/26





2009年7月。 mixi の「ヨコハマ」コミュで、
おもしろい方向から初瀬野オーナーの話題が浮上しました。

3巻・100ページにある「INTER MISSION」のイラストは、
実は『初瀬野先生とアルファさん』なのではないか?というのです。





これに気がつかれたのは、斎藤”ayata”帰蝶さん。

僕自身は、芦奈野先生が「若夫婦かなにか」を描いたイラストだと
勝手に合点していたのですが、たしかに
『初瀬野先生とアルファさんの関係を描いた、
ヨコハマの前身となるイメージイラスト』

とも考えられます。

だとすると、公式にして唯一の、
初瀬野先生の素顔を描いたイラストといえるかも?



連載が終わって数年…

最近になって、作品の噂を聞いた新規ファンが
また少しずつ増えるなどして、

どんどんと、新しい、ハッとするような切り口の見方が
生まれてきた感があります。


謎に包まれた良作の世界は、
読み手の新鮮な考察の目が入りつづけてこそ広がるもの。


今のこうした流れはとても良いことだと、
僕も1ファンとしてしみじみ嬉しくなります。


などと、本腰入れてからまだせいぜい5年の僕が
偉そうに言うのもアレですが(笑)



浜の真砂(まさご)は尽きるとも、世にヨコハマの謎は尽きまじ、です。



                                     2009/07/10





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