■ マルコの恋の、結末は?(前編)







『こうして見ると、本編で出てくるA7M3型の中で、
もっとも精神的に若いのがマルコかもしれませんね。』



これは、カフェアルファで一悶着をしでかした
102話マルコに対して書いた、僕の感想です。


誤解を受けそうなので補足しますと…
『A7M3型の中で、もっとも僕ら人間に近い心を持っている』
のが、丸子マルコなのかもしれません。



そもそも、他の「ロボットの人」は、
現実で今を生きる僕たちに比べてあまりに達観しているというか、
すでに自分のペースを獲得した者としての
重みのようなものがあります。

姿こそ若者ですが、心はすでに(良い意味で)老人的 というか…


だからこそ、人間らしい「目先の悩み」を持つマルコが、
他の登場人物の中で浮いて見えるのでしょう。




今日は、アルファさん・ココネ・マルコの付き合いの日々を、
3人の三角関係(?)を軸に、時系列にそって追いかけてみました。


そして、マルコにとって

アルファさんという存在は最終的に何だったのか?







当サイト屈指の長文コンテンツとなってしまいましたが、
どうぞ腰を据えて、よろしくお付き合いください。







■ 92話 『マルコ、アルファさんに会いに行く』



以前から、ココネの口から話にだけは聞いていた、
アルファさんというロボットの人…

そのアルファさんに直接会いに行くのを
マルコが決意をするのは、92話


画材卸し会社ニュートロン営業として
ヨコハマ近辺にやってきた彼女は、

1日の仕事を終えた余暇を利用して、
社用車に乗って西の岬へと足を延ばします。



そして、三浦の地理に疎い彼女が
道を聞くために立ち寄ったガススタンドで、

あろう事かアルファさん本人と
いきなり鉢合わせ
てしまいます。






ナイの送ってくれた映像で
アルファさんの顔を知っていたマルコは、
不意の対面にうろたえますが…

それでも、自分は相手を知っていて、
相手は全く自分を知らない
という状況は
相当のアドバンテージです。


最初からある程度の対決姿勢で臨んでいたマルコは、
客という優位な立場も追い風になって、
終始ツッケンドンで高飛車な態度…

そして、変に「謎の女」を気取る厨二ぶり


何も知らずにこの話だけ読んだ人は、きっと
「どんだけヤな女だよ」と思ったのではないでしょうか?(笑)



もちろん、マルコの「対決姿勢」自体、
スタート地点からして擁護できるものではありません。


親友として付き合いたいと願うココネが、
自分よりも深く慕う人、アルファさん

すでに親友のナイが、口にはしなくても
画像データとして送ってくるほど気に入った人、アルファさん



そのショックは理解できても、
『会って いろいろチクチク言ってやるつもりだった』
というマルコを誉める読者などいないと思うのです。

むしろ、不快に感じて当然でしょう。



ただ、そんな彼女を見ていて感じる、
この胸の奥の、痛々しさにも似た歯がゆさは何でしょう…?


僕らはマルコの中に、
かつての、あるいは今まさに直面している、

『自分自身の弱さ』
見ているのかもしれません。



今までの「ロボットの人」に見られなかった人間らしい弱さが、
マルコというロボットに独特のポジションを与え始めたのが、
この92話だと僕は感じています。




ちなみに、マルコの痛々しさの極みは、最後のコマ

「まあ ごっそさん」などとクールに構えて店を去ったのに、
仕事に必須のワイドマップを置き忘れて帰る
という大ポカをしでかします。





なんだかんだ言いつつ、頭の中は
「アルファさんに勝つんだ!」 というアセリで
いっぱいいっぱいだったのでしょう…(笑)






■ 101話 『マルコ、ココネと一緒に訪れる』



秋の涼しさがただようある日、
新装したカフェアルファ
最初のお客さんが訪れます。


前回は改装中という事もあって、
カフェアルファでの直接対決(笑)が果たせなかった、
そのリベンジに意気込むマルコ

そして、そのお付き合いという形をとって遊びに来た、
アルファさんの無二の親友ココネの2人です。



店内に入ったマルコは、
最初から攻撃姿勢バリバリ

店の内装にケチをつけ、
ココネをグッと抱き寄せて
アルファさんをヒかせます







しかし、アルファさんに「…ひさしぶりだね」
優しくほほえみかけられただけで
ウットリしてしまうココネを見ても、勝敗は歴然
(勝ち負けがあるとしたら、ですが)


言葉1つ、視線1つに「つながり」を感じさせる
アルファ・ココネのそばで、
空気のようになってしまったマルコ。


ココネの相手はアルファさんでも、
自分の相手は物言わぬコーヒー…

2人に話題をふられても軽く受け答えるだけで、
視線は自然に窓の外に移っていきます…









■ 102話 『マルコ、予想外の一撃を食らう』



今までどちらかと言えば
楽園的な人間関係の中にあったカフェアルファで、

初めて、かつて無い空気が流れる回です。


マルコが、アルファさんの今の生活を否定するのです。

3ページにわたって(笑)






 「まじめに店をやろうと思ったことがあるの?」

 「だらーっと生きているロボットを見るとムッとくる」

 「ほかのロボットの人は、もっと真剣にやっている」



(この3つの文は、後でマルコの心を読み解くヒントになるので、
よく憶えておいて下さいね)





一方的なマルコに唖然とするアルファさん…

どうしていいか分からず、だんだんと下を向いて
半泣きになってしまうココネ

取りあえず、「ごめんなさい… もっと勉強します」と、
アルファさんにお詫びされるマルコ。


ここまでは、マルコにとっても読者にとっても
予想の範疇の展開ですが、
ここから唐突に事態が急変します。


アルファさんが、「友達として話をしたい」と前置きした直後、
今まで見せたことも無い「声は荒げないが明確な対抗姿勢」で、
マルコに反論したのです。

(ここは、やや性急で、今でもファンの間では賛否両論ある場面です。
僕もこの場面だけは、作品全体の整合性として見たとき、
ちょっと失敗だったのでは?と思っています)





で、アルファさんの反論が終わったとき、
マルコがつぶやいたのは…




「…わかってるよ」


「…コーヒーも けっこう のめる」








「ひやかしだよ」


「おめでとう 開店」






おそらく 「もう1回ぐらい反撃が来る」 と
思っていたらしいアルファさんは、

肩透かしをくらったように、
「え… ああ ありがと…」とだけ答えています。






さて、このマルコの行動の
根底にあったものは何なのでしょう?



まず、ちょっと読み込んでいるファンなら
すぐに気がつく点として、

『アルファさんの生活に対する、マルコのねたみ』

が挙げられます。



画家を目指す日々のマルコは、
聞こえの良い言い方をすれば
『夢に向かってまっしぐら』です。


が、実際に体験した者には
言うまでもなく理解できると思いますが、

「夢に向かっている状態」は、

『まだ夢が実現していない状態』 と同義です。



そこには、夢への下積み以外にもこなさなければならない

『生活を成り立たせるための人間関係』
『生活を成り立たせるための時間の消費』


が、当然 要求されます。


1人で暮らしながらも、
夢と現実のギャップから生まれるわびしさとの2人暮し
のような生活…



ひるがえって、アルファさんはどうでしょう?


幼い頃から「カフェアルファ」という、
いわば自分のアトリエを持ち、

ココネの口から聞くかぎり、
お客さんに出すコーヒーは評価を得ており

(もちろん、アルファさんと過ごす時間こそが
お客さんの本目的なのでしょうが)


しかもナイ・ココネといった友人の心は
明らかにアルファさんのほうに惹かれている



「生まれながらの環境」 「ユーザー評価」 「慕ってくれる友人」



自分が持てなかったものを、持てた人…

自分がまだ持っていないものを、持っている人…

自分が今持っているものまで、持っていってしまう人…



それが、この時点においてマルコが感じている
アルファさんという存在なのです。




そもそも、先ほどのマルコの
「アルファさん批判」 を思い出してみても、

「まじめに店をやろうと思ったことがあるの?」『あやふやな道徳論』

「だらーっと生きているロボットを見るとムッとくる」『身勝手な個人感情』

「ほかのロボットの人は、もっと真剣にやっている」
『多数に頼った平均的な正論』


上記の通り、実は いずれも、
『マルコ自身とは、比較していない』
という共通点があります。



正論多数意見ばかり並べて、
自分との決定的な比較を避けているマルコの態度は、

直感的に「アルファさんには勝てない」
スタート地点からして「勝ちようのない相手」だと、
心のどこかで認めてしまっている自信の無さの現れです。


その、あまりにスラスラと出てくるセリフからも、
多分、今日ここに来るまでに何度も反復練習して、
「これなら反撃できないだろう」と確信していたのかもしれません。


アルファさんの性格なら、あいまいに笑ってスルーする…
という期待も、どこかにあったのでしょう。



そこまで準備しないと、
とてもまともには太刀打ちできない、
圧倒的な相手

それが、マルコの目に映るアルファさんなのです。






では、そこまで圧倒的な相手に、

それでも攻撃をしかけよう
マルコ決意させたキッカケは何だったのか?



ココネナイを取られたような気持ちになった寂しさでしょうか?

環境に対するネタミでしょうか?



前述の通り、それもたしかに土台ではあります。

でも、最後の一線を越えさせたものが、
他にあると自分は考えます。




それは、直前にアルファさんの淹れた
1杯のコーヒー だったのではないでしょうか?


マルコがアルファさんを攻撃する直前…
27ページ中段のマルコの顔をよく見てほしいのです。

マルコは、ほほえんでいますね?






「バッチリ準備してきた、今から始まる論戦の勝ち」を確信する…

そんな心理には似つかわしくない、
それは、穏やかなほほえみです。



そう。 マルコは、直前に飲んだコーヒーを通して感じた
アルファさんの人となりから、

『この人なら、自分の、ムチャを承知の攻撃も
許してもらえるのでは?』
と期待し、
甘えたくなったのではないでしょうか?




年上の兄姉を、先輩を、両親を…
信頼しているからこそ、ふと困らせたくなる、あの瞬間…


もともと「チクチク言ってやるつもりだった」事にくわえ、
オーナーから離れる際に一悶着あったと思しきマルコ…


物作りにたずさわる者特有の、
「尊敬する相手に素直に甘えられない心理」
「最終的には1人で勝っていかなければならない孤独」…




そうした背景の中にあったマルコは、人一倍、
姉や母的存在を欲していたロボット
と考えて、なんら不思議はありません。

アルファさんの中に無意識に「求めるそれ」を見たマルコは、
だから甘えた自論でダダをこねたのでしょう。


もちろんそこには、今までの自分がアルファさんに抱いていた
敵愾心へのケジメの意味合いもあったと思います。



それを念頭に、改めて、
アルファさんからの意外の反撃を食ってしまったマルコの、
37ページのバツの悪い表情をご覧ください。






クールに構えていたマルコが、アルファさんの一撃を食らって、初めて、

自分が潜在的に他人に求め続けていた包容力
独り立ちを気取っても、自分の中で満たされていなかった
大きな人の懐の中で無邪気でいたい欲求
自分自身でハッキリと気がついてしまった


そんな困惑と恥ずかしさに満ちた、この表情を。



振り返ってみれば、この102話のタイトルは『A7M3 丸子マルコ』


作者の芦奈野先生は、この1話に

マルコというロボットの心
総決算して我々に見せてくれたのかもしれません…





★後編はコチラから



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