■ 『最後の丘』を求めて




「ヨコハマ買い出し紀行」に登場した場面の
現地を訪れるのが大好きなあなたに、質問です。

あなたにとって最大の謎となっている場面(場所)はどこですか?


2009年5月現在の僕が1も2もなく挙げるのは、
今回ご紹介する『最後の丘』です。

この「最後の丘」という名称は、僕が便宜上そう呼んでいるにすぎません。
範囲の見当はついていて、2年以上探し回っているのに、
いまだに出会う事ができない場所なのです。

しかし、コミックスを読み返してみれば、この丘が作者である芦奈野先生にとって
相当に深い思い入れがある場所である事を感じずにはおれないのです。


という事で、今回は異例として、
いまだに判明していない「最後の丘」について
現時点で分かっている範囲の情報をご覧いただこうと思います。

三浦市近辺の地図をお持ちの方は、ぜひそれを片手に、
いっしょに推理してみてくださいね。


なお、かなりの長文ですので、
コーヒーなどをご用意いただくとベターです(笑)






『最後の丘』が最初にコミックスに登場するのは、9巻・28ページ





中部地方から1年の旅路を経て帰宅したアルファさんが、
ガソリンスタンドで店番をしていたタカヒロからお茶をごちそうになった後、
自宅に「わざとゆっくり帰る」ために立ち寄ったのが、この丘でした。

時系列的に、ガソリンスタンドカフェアルファを中心に
2時間ちょっとで行き来できる、半径5キロ以内ほどの場所
ではないかと思われます。

…と書くと、ずいぶん範囲が広いように思えますが、
以下のヒントから続々と候補地がしぼられていきます。




★『ガソリンスタンドから南』

お茶を飲み終わったアルファさんが歩いていったのは、
27ページを見て分かるとおり、スタンドのコンクリ壁の位置から、
カフェアルファのある方角です。

また、肝心のガソリンスタンド自体の位置ですが、
一部の現地系サイトでは『引橋交差点 〜 三浦海岸』
国道134号の道中という見解がありますが、
僕は同じ国道134号近辺でも『京急 三崎口』付近ではないかと見ています。

今回は後者を基点に考えます。
そのほうが、対象範囲も広がるからです(笑)


というわけで、まずは対象範囲が、
『京急 三崎口』付近から南 にしぼられました。




★『三浦市 西部』

28ページで、打ち捨てられたコンクリ壁のようなものに腰かけて、
夕焼けに浮かぶ富士山を眺めるアルファさん。
このシーンは大きなヒントです。

まず三浦市というのは、ものすごく大雑把に言うと、
『引橋交差点』を中心に全方向にゆるやかに標高が下がる、
『ゆるい円錐型の引橋山(笑)を中心にした斜面でできた町』です。

ピンと来た方もいらっしゃるのではないでしょうか? そうです。

つまり、『市の東側からは、中心の丘がジャマをして、
富士山が眺められる場所がほとんど無いか、限定されてしまう』
のです。

これを念頭に28ページを見直すと、重要なことに気がつきます。

アルファさんの座るコンクリの丘から西を見ると、
「道をしたがえたゆるい丘」がもう1つ見えているのです!

この事から、『アルファさんが座っている場所自体がかなり高い』
(引橋交差点付近からあまり離れていない可能性が高い)ことが推測されます。

もちろん、西の丘こそが引橋で、アルファさんが座っているのは
「引橋の東の同じぐらいの高さの丘」という見方もできます。
が、言うまでもなく、そんな丘は存在しません

アルファさんのいる場所は、
『引橋交差点を含む市の背骨
(南北につらぬく標高の高い一帯)のどこかか、それより西側』

と考えるのが自然に思えます。






以上から、黒崎の大根畑あたりを北限とした
三浦市の西半分一帯が、候補地としてしぼられました。

とはいえ、簡単には見つかりません。
以下は、僕が訪れた一部の候補の、実際の現地風景です。




■『京急三崎口駅 南東1キロ付近』



三崎口駅から引橋までをつなぐ国道134号の東に広がる
畑の辺りに、アルファさんは座ったのではないか?と考え、
駅の南東に広がる畑一帯の細いコンクリ道を歩いてみたのですが…

結果はハズレ

国道134号より東に来てしまうと、
三浦半島の背骨から横に下りるように標高が下がってしまうのです。
西の家々も、視界をさえぎってしまっています。

また西側は、海までゆるい斜面が続いているため、
途中に「道をしたがえたゆるい丘」を望むような場所は皆無なのです。




■『三崎高校 跡地』



アルファさんが立っている場所が付近で一番高いのだとしたら、
『大三叉路』(引橋交差点)の最上部の可能性が高いです。

だとしたら、このコンクリ跡は、
そばの三崎高校(現在は廃校)のものではないでしょうか?

ただ、いくら夕凪時代とはいえ、大三叉路に該当する道
(座っているアルファさんの付近)小さすぎます

そもそも、アルファさんのいる場所の付近はカーブしていて、
三叉路に見えないし

ここも違うようですね。




■『小網代配水塔 付近』



三浦市の西のさまざまな場所からその姿を眺められる『小網代配水塔』

『引橋交差点』なみに標高があり、
視界も開けた良い場所なのですが…

残念ながら西にあるのは、谷間の小網代の森
「道をしたがえたゆるい丘」など見当たりません。




■『油壺湾』



基本的に西へまっすぐのびる湾が多い三浦半島にあって、
珍しく大きくカーブしているのが、油壺湾の特徴です。

そのため、湾の東側から富士山方向を眺めると、
『油壺マリンパーク』をのせた岬がのように見えて、
パッと見に漫画内のコマと似たような雰囲気になります。

が、丘の上には道が見えず、逆に漫画内では描かれていない
「マリンパークの建物」が見えてしまっているという矛盾があります

(1巻・71ページを見て分かるように、マリンパークの建物は
夕凪時代にも残っているのです)


ここもハズレですね。




これらを含めて計10ヶ所近くを、2年かけて歩き回ったのですが、
どうしてもナットクのいく風景に出会えませんでした…

強いて言えば、引橋交差点のすぐ北のT字路から、
小網代の森ぞいに西に進む小道一帯
がそれっぽいのですが、
ここは2005年頃から農地造成の対象区画になって、
一帯の丘がザックリと削り取られ、平地になってしまったのです。

僕自身、造成が始まる前の2004年ごろに、
本当に偶然から、一度だけこの小道を通ったことがあります。

小網代の森から三戸海岸まで、ゆるい凹凸の地面を、
ゆるく蛇行していく心地良い小道…

そんな小道に掲げられた「不法投棄禁止」の看板をあざ笑うように、
谷間にゴッソリ捨てられた粗大ゴミの山を見て、
人間の少ない(他人の目の届かない)場所までゴミを運んで
捨て逃げする「ゴミのような不要な人間」のせいで、
われわれ人間にとって心地良い風景が失われていくのだ…
と、不法投棄者に対する殺意が煮える思いがしたのをよく憶えています。


その小道も、丘とともに消滅し、
途中から北に大きく迂回するようになってしまいました。






ちなみに、この『最後の丘』
一部に、岩堂山 のことだと思っている方もいらっしゃるようです。


が、両者は間違いなく別物です。

9巻・28ページ102ページを比較すると分かりやすいのですが、
後者はコンクリの近くに小道がありません

また、前者より後の話なのに、後者のほうがコンクリがきれい
なのも、両者を別物と判断するに十分な材料です。






なにより、岩堂山から富士山方面を見た場合の風景は、
以下の写真のとおりで…

「西へのびる道を背負った丘」など無いのです。
(写真中央右上のうっすら白いものが、富士山の冠雪です)






ただ、岩堂山が「最後の丘」と勘違いされるのも、
無理もないところはあると思います。

「最後の丘」が登場してからわずか6話後に、
岩堂山アルファさんのお気に入りの場所として
登場しているからです。

しかも「コンクリ壁」という類似点…

勘違いもするよなぁ、と思います(笑)






それではここで、「最後の丘」に関する
最大にして最後のヒントを挙げましょう。


当場所は、9巻以降、長い間その姿を見せませんが…

最終巻である14巻において、
突如として再登場し、2回の描写がなされます。


「おいおい! 芦奈野先生の思い入れが深いとか言っておきながら、
都合3回しか登場してないじゃん!」
と、お感じになったあなた。

その2回が、139話140話だと言っても同じ感想を持たれますか?



そうです。

最終話と、その1つ前の話 なのです。



しかも、139話は強烈です。

子海石先生からもらったペンダントを首にかけたアルファさんが、
大空にデジカメを投げ上げるあのシーン




彼女の立っているその場所こそが、『最後の丘』なのですから。


最終話の1つ前という重要な位置付けの話の大半が、
唯一の肉親である初瀬野先生(おそらく故人)への、
この丘の上からの、アルファさんの語りに費やされています。


僕が芦奈野先生の思い入れが深い場所だと考えた理由
そして、『最後の丘』という名称をつけた理由が、
納得いただけたのではないでしょうか?



「最後の丘」は最終話ではチラリと出るだけなので、
139話についてのみ検証してみましょう。

まず大ざっぱな場所ですが、外歩きをしているアルファさんが
バイク無しにたどり着いている点から、
やはりカフェアルファから比較的近所
かつ、ゆるい坂を上っていることから、『引橋』周辺の可能性が高そうです。


しかし、最大のヒントは、やはり132ページの見開きでしょう。



アルファさんがデジカメを投げ上げたことで、
今まで富士山を画面の中に入れるために東側からばかりだった視点が、
空中… つまり、付近の道が分かる角度に移動したのです。

この見開きから分かるのは、
『直径数10メートルのカーブを描く道がある事』と、
その内側のコンクリ跡から
『かつて、建物か敷地があったらしい事』の2点です。

道がY字になっていない事が判明したこの時点で、
残念ながら『大三叉路』は候補地から完全に外れました


三浦のどこかに、ヒッソリとこんな道路があるのでしょうか?
いつかこの目で、この足で、現地を体感したいものです。





僕は、「アルファさんが中部地方から戻った後から、最終話にかけて」を、
個人的に『後期』と呼んでいます。

振り返ってみると後期は、
「最後の丘」から始まり、「最後の丘」でしめられた物語
だったと言えるかもしれません。
(最終話はさらに遠い未来の話なので、省いて考えます)


そこには、物語の構成云々以上に、
作者「芦奈野ひとし」先生の個人的な深い思い入れがあった…
と考えてるのは、むしろ自然な流れではないでしょうか?


僕が、『探す』のコーナーに
何度もこの「最後の丘」を載せようとしては躊躇った2年間は、
『この特別な場所だけは、絶対に他人より先に見つけ出す!』
という意地による所が強かった、と思います。

当作の現地考察系ファンの1人として、
自他ともに認める「ナンバー1」に至るための場所…
そんな神格化が自分の中にあったのだと思います(笑)


しかし、あれからすでに2年半
連載終了後、ヨコハマの現地を精力的に追い続けているサイトは、
気づけばウチだけになっていました。

ナンバー1を目指していたら、オンリー1…
なんとも寂しく、皮肉的です。 



それもあって、今回の情報公開(笑)に踏み切りました。

今回の情報を元に誰かが『最後の丘』を発見したら、
それはそれで良いのではないか?と考えたのです。






最後に1つだけ…

この『最後の丘』の情報公開に踏み切った理由の1つに、
すでに無くなっている場所である可能性が高いことも
大きかったことを付け加えておきます。


途中で一度ふれましたが、農地造成でケズり取られて
平地になってしまった、三戸の東部の丘

アルファさんと富士山の間に見えている「道をしたがえたゆるい丘」は、
この付近にあった丘である可能性がかなり高いのです。


つまり、『最後の丘』は…

すでに この世に存在しない光景
である可能性が高いと考えられるのです。



その意味では、アルファさんが座っていた場所も
削られてしまった可能性があるのですが…

自分が持っている『ゼンリン電子地図Z5』(2003年版)を見るかぎり、
削られた領域に『直径数10メートルのカーブ』が見当たらりません。

つまり、そこだけは現存している可能性が高いのです。


したがって僕の今後の追跡も、
「富士山の方向に丘がある、高い場所」ではなく
「直径数10メートルのカーブがある、高い場所」
のみにしぼられていくと思います。


そして例え発見したとしても、
紹介は写真とヒントのみに留めようと思っています。

この場所は、おそらく芦奈野先生にとって思い出深い場所…

他の場所以上に、作品と現地住民に敬意を払える者だけが、
ひっそりと訪れるべき場所だと思うのです。

(いや、それを言ったらどの場所だって
「現地住民に敬意を払うべき」なのですが…

おそらく「最後の丘」は長者ヶ崎のような一般観光スポットではなく、
本当に地元の人間しか立ち寄らない、
そんな場所である可能性がかなり高そうなのです。)





今でもどこかにあるのでしょうか? 『最後の丘』

もし行き着くことができたら、僕も夕日に霞む富士山に向かって、
「これからも見て歩きつづける」ことを空の誰かに報告しようと思います。





(執筆 2009/05/30)




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