■ 3本の月の輪っかの
正体は?









『私 三つ見えます』


これは130話で、アルファさんが
おじさんに語った一言です。




日が暮れて、東から昇ってきた満月を眺めつつ、
カフェアルファの庭で2人だけの宵のお茶…



その月にかかる光の輪を見て、
ふとアルファさんがおじさんに問うたのは、
『月の輪の数』でした。


「月の輪っかって いくつ見えますか?」


おじさんはコーヒーをすすりながら…

「ひとつだな 大体」


そのおじさんへの返答に続くのが、
冒頭のアルファさんの一言です。




僕はこの「3つ見える」を、コミックスを読んだ当初、
おじさん同様、『アルファさんは目がいいんだな』
ぐらいに考えていました。

ロボットだから、人間よりも眼が高性能で、
少ない光をとらえられたりするのだろう。

だから、人間にも見えない、
淡い光の輪をとらえているんだろうな、程度に思っていたのです。



ところが、2010年の10月になったある日、
mixi で keii-i さんという方が撮影した月の輪の写真をもとに、
彼と月の輪について会話しているうちに…


ふと、あることに気がついたのです。


アルファさんは、
単純に「目がいい」だけでは無かったのではないか?
と…








話のキッカケは、こうでした。


僕の知っている「月の輪」といえば…
皆さんもご存知の、「月の傘」と呼ばれる、
天気が悪くなる前に月の周りに大きく広がって見える、
多くても2個の、薄白い輪
のことだったのですが…


この輪は、ハロ と呼ばれる光の屈折現象であり、
内側の視半径22度(直径約45度)ものと、
外側の視半径46度(直径約90度)の2つの輪
が存在すること…

そして、内側の輪よりさらに小さい、
『視半径9度(直径約18度)の輪』というものも存在することを、
keii-i さんの話と、ネットでかき集めた情報で知りました。



また、keii-i さんが撮影したものは厳密には「傘」(ハロ)ではなく、
光冠 と呼ばれる現象であることも、
ご本人から説明がありました。

ネットで調べたところ、光冠は、
視半径がせいぜい1〜5度程度にしかならない
ということ。

光源からあまり離れない現象なのですね。




まず、ここまでの情報から、
「おじさんが見た」月の輪っかの正体が見えてきます。

漫画内で描写されている月の輪は、
ズラリと並べれば「10個」ほどで
東から西までつながりそうな大きさ。

それはつまり、1つの輪が直径20度弱

先述の、『視半径9度(直径約18度)のハロ』
であった可能性が、かなり強そうですね。



あるいは、月の視直径は30分(0.5度)なのですが、
漫画内の輪がそれに合わせて厳密に書かれているとすると、
輪の半径は「約1.5度」と考えられますので…

『光冠』で決まり、という感じですね。



いずれにしても、今回重要なのは、
輪の種類が何であれ、
その正体が『虹』である点なのです。











さて、話はここからが本題です。



今回の「月の輪」の話を通じてネットで調べるまで、
僕はたいへん大きな勘違いを2つもしていました。



1つは、月の輪の正体が『虹』であることの失念。


言われてみれば、昔どこかで聞いたことがあったのですが、
今の今まで忘れてしまっていたのです。

せいぜい、月の光で水蒸気が照らされている、
「白いだけの輪」ぐらいの認識でした。




そしてもう1つは、130話の最後の大ゴマ

『アルファさんの視点によると思われる、3重の月の輪』
の描写です。


これ、よく見てみると変な輪ですよね。


たしかに3本ではありますが、
内側の2本が隣接している


で、僕は当初、この「内側の2本」が、
おじさんや僕らの見ている月の輪の、ちょっと描写を丁寧にしたもの

程度に思い込んでいたのです。






ところが、これの見方をちょっと変えて…


『内の輪と、外の輪…
その両者の隙間こそ、人間にとっての月の輪』

だとしたら、どういう事になるでしょう?


つまり、可視光線(人間が色として感じられる光)が見えず、
それ以外の「何かの光」(?)が見えている
と考えるのです。




先ほどの、「月の輪の正体が虹」という言葉から、
ピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか?


そうです。

虹の内側と外側…
人間の可視光線の内と外に隣接している光とは…



『赤外線』『紫外線』



アルファさんは実は、
可視光線ではなく、
赤外線や紫外線を主体に見ている生き物

だと考えられるのです。

(正確には、外側の1本が近赤外線
内側の2本が、近紫外線遠紫外線と思われます)






そこに気づいてみると、
作中の何げないようなおじさんとの会話に、
大きな意味が含まれていることに気づきます。


『ちょっと離れた所でも
おじさんがタバコに火つけた瞬間がわかるんですよ』



これは、アルファさんが、
タバコという熱源から発せられる赤外線
感知できていたことを、暗に読者に示すセリフと言えないでしょうか?



僕もコミックス購入当時に読んだときは、
「どうしてアルファさんは、
急にタバコの話なんか始めたんだろう??」

と不思議に思っていたのですが…

「芦奈野先生からの、アルファさんの機能のヒントだった」
と考えれば、いろいろと合点がいくのです。






アルファさんのその眼には、
世界はどのように映っているのでしょうか?

それは、僕ら人間からすれば理解を超えた、
不可思議で、ある種ブキミな光景かもしれません。


でも、見え方は違っても、
見ているものは「本当のこと」、
「僕ら人間と いっしょのもの」




異なる見え方の月の輪を見上げながら、
異なる2つの生き物が、
しばし「同じふね」の上でコーヒーをかたむける…



そんな夜があっても良いと思うのです。














これ以外にも、内側の2本は実はやっぱり「普通の虹」で、
その外側の「夜空と同じトーンの貼ってある部分」が実はもう1本の輪で、
最後に一番外側の明るい輪で計3本、

という見方もできなくはないですね。


その場合は、アルファさんは、
「人間の可視光線」プラス「遠近の赤外線」
が見える眼を持っていることになりそうです。

人間の眼よりも、さらに長い波長まで感知できる
という事ですね。



こっちのほうが、性能としては「それっぽい」かな?

可視光線が見えないという設定は、
人間離れしすぎていて、僕もさびしい気もするので…(笑)



そして、keii-i さん。
考察のヒントを、ありがとうございました!









このページをアップして、翌日 mixi に行ったところ、
keii-i さんからの追加情報があったので
読んでみたのですが…


むむー…

それを読むと、
「アルファさんには赤外線が見えてる説」が、
僕の中でちょっと揺らぎだした気がするのです。



というのも、この現象を『光冠』だとすると、実は光冠は、
何層かにつらなって見えるものなのだそうで…

(といっても、人間の眼で簡単に識別できるものではなく、
写真などを通して見えてくる淡い現象らしいです)



以下のページは、keii-i さんに教えていただいたものなのですが…
『橋本章さんのページ』(光環)
たしかに、写真を通して3層ほどの虹が確認できますね。




ここで気がついたのが、件の「最後の大ゴマ」。

僕はあの絵を、
「間に大きな隙間のある、3色(3本)の輪」
と見たのですが…

あれって、よく考えてみたら、
「内側の明るい2色」と、「外側の黒(隙間)と一番外側」
相似になって並んでいるようにも見えるのです。

つまり、
「内側の輪」を、一回り大きくして、
かつ暗くしたのが「外側の輪」



そう考えると、あの絵は、
「間に隙間をはさんだ3本の輪」ではなく、
『2本の光冠(虹)』という事になってしまう…

だとすると、隙間の正体は、
『暗くて目視できなくなった「虹の内側」』

つまり、別に「アルファさんの視点」というわけではなく、
おじさん(人間)にも目さえ良ければ十分に見れる光景を、
より詳細に描写しただけのコマだったわけです(ガーン)


そして、アルファさんが「3本見える」と言ったのは、
単に人間よりさらに高い(カメラのような)感度の眼を持っている、
という程度の意味だったわけです。




自分の思いつきを、直後に否定する形に
なってしまうのは、正直悔しいですが…

だからといって、現実から目をそらすのも卑怯なので、
現時点で分かっていることを上記に客観的にまとめてみました。



ただ、1点だけ気になるのは、アルファさんのセリフです。

あの、唐突に出てきた「タバコの気配が分かる」
あれは、この話にどう絡んでいるんだろう?



で、いろいろと考えてみたのですが…

この130話は、『ロボットの高性能な感知能力』の話で、
おじさんがタバコをつけるときのわずかな変化
(熱・音・空気の触感)でも、アルファさんは敏感に察知している
という意味を含んだ会話だったのかもしれませんね。






執筆 2010/10/25




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