アルファさんが、西の岬を 「本当は住みづらいところ」 と、
さらりと表現するなど、

今まで漠然と 「理想郷」 として描かれていた作品世界に、
ヒタヒタと滅びの現実の足音がしのびよります。


人・環境ともに、少しずつ閉じていく話が多く、
長年この作品を見てきた読者にとっては、
「いよいよ…」 という予感がじんわりと湧いてくる巻です。


14巻で一気に時間の経過が早くなることを考えると、
事実上の最終巻 といえるかもしれません。






  第121話    50Km、6時
 タイトルの意味は、「50Km 離れた場所の、午後6時の2人」… でしょうか?

 ココネの「いいなって思うひと」は、三浦の地で、夏に向けてカフェアルファを改装中です。

 シバちゃんには、距離を置いている恋人がいるようですが、本編にすでに出ているキャラなのでしょうか? そういえばムサシノ運送の描写は、ココネ&シバちゃんがメインなので、若い男性キャラて見たこと無かったですね。



  第122話    スイカの日
 夏の昼すぎ、ガソリンスタンドの日陰で、おじさんアルファさんによる、ゆるい世間話。 スイカを押しつけたいおじさんと、うれしくないアルファさんの、微妙なやり取りも(笑)

 話はやがて、カフェアルファの行く末へと移ります。
「まだ先」のことですが、それは確実に訪れる未来です。
 そしてそれは、おじさん自身についても同じこと…


 ちなみに、「昼間うち(カフェアルファ)まで来るのは マッキちゃんにもキツい」そうですが、広々とした畑は多くても木々はそれほどでもない(逆に、生えている場所には過密なほど生えていて近寄りがたい)三浦半島南部を夏場に歩くのは、本当に大変です。

 「暑い、もうダメだ、助けてくれ」と思っても、見回せば、さんさんと太陽を浴びて鉄板と化したアスファルト道路、日当たり良好のゆるい丘、金色の砂浜…

 木陰に近づこうにも、元気いっぱいに密集した林は入るだけでも大ごとで、入れたとしても木々から放出されるむせ返るような水蒸気で意識が遠のきます。

 バス停にたどり着いて時刻表を見たら「次のバスまで30分」だったりすると、ゆらめく遠方の景色がさらに揺れ、ポケットの中のノートに遺言を書きたくなります…



  第123話    夏の終わりに
 小網代の入江に帰省するアヤセ。 またもマッキに一杯食わされます(笑)

 タカヒロへの思いからか、アヤセと一緒の旅は「やっぱ行かない」と答えるマッキ。 仔カマスの頭をやさしくたたいて、帰っていきます。

 歳の離れた妹のように思っていた少女と、何となく距離が開いたことを実感するのは、寂しいものですね。 一度心が離れると、多分もう二度目は無い。
 仕方ないとは思っても、時が経って、ふと寂しく思い出すことがあります…



  第124話    鼓動
 自宅の物置を整理していて、オーナー模型用のエンジンを発掘するアルファさん。 苦心の果てに、エンジンの起動に成功します。

 燃料を使い切るまで回ったエンジンは、おそらく二度と動く事はないですが、それは死んでいるのではなく、ただ黙っている姿にも見えます…

 子海石先生とアルファさんが太平洋に解き放った水上艇も、きっと洋上を、悠然と黙って、今でもただよっているのでしょう…



  第125話    顔にあたる空気
 たびたび「空を飛んでいた」アルファさんですが、今回のエピソードは、その中でも大きなヒントとなる話です。
 風景はリアルタイムに見おろしているのに、そこに自分自身がいない

 当初僕は、ターポンが地球上を周回しつつ記録している空間データを、他の機械との高い融合性を持つアルファさんが無意識に抽出して、そのデータから再構築した擬似空間を「頭の中だけで飛んでいる」と考えていたのですが…

 今回の話や、以前のタカヒロの目撃例を合わせて考えると、「物理的に」飛んでいるとしか思えません…
 どういう原理によるものなのか、解き明かす事で一気に夕凪時代の本質が見えてくるようにも思えます。

 まさかとは思うのですがアルファさん、その融合能力によって『世界そのものに融合』していたとか??


 (空飛ぶアルファさんについてのまとめ考察は、こちらです。)



  第126話    おねえさん
 ココネと話すアルファさんの姿を眺めつつ、「アルファさんの顔を 初めて ちゃんと見た」マッキ

 アルファさんの人間性の大きさへの気負いからか、タカヒロに関するわだかまりがどこかに残っているのか、直視するのを無意識に避けていたのかもしれません。



  第127話    
 ココネとともに、流星雨を目撃するアルファさん。

その、とめどなく降り注ぐ光の滴に、「体が上に進んでく…」ようにすら感じます。



 僕は流星雨は見たことが無いですが、大きな火球なら一度だけ…

 1996年の1月、たまたま出かけた五日市で夕方の空を見上げたところ、ものすごく明るい光点があることに気がつきました。

 金星か?と思いましたが、夕方の北東の空に金星が見えるはずが無い。
 飛行機人工衛星かも…? と思った矢先に、そいつが夕空をズルリと加速しつつ動いて、ひときわ明るく輝いた後、唐突に消えてしまったのです。

 一瞬、炸裂する前の弾道ミサイルを見てしまったのか? 物陰に隠れるべきか? と、背筋が凍りましたが、それ以降は静かなもの…
 ここでようやく、それが「火球」らしい事に気がつきました。

 翌日の新聞には、『関東上空に火球!』と、けっこう大きく記事が載っていたのを憶えています。



  第128話    視線の星
 千葉『刑部岬』で一夜を明かしたアヤセ

 水神さま・街灯植物・白いビルなど、今まで物語中で出てきた不思議なものに対する彼の考察をまとめた、重要な回です。


 そして、ゆっくりですが、確実に失われつつある西の岬



  第129話    solo
 地元のバイク店で、愛車をチューンナップしてもらったココネ
夕方の町を、ちょっと遠出してみます。

 前々から気になっていた『印象的な塔』を間近で見上げたりも…

 134ページの左上のコマ139ページを続けて読んで大笑いしている自分は、本当に嫌な大人ですね(笑)

 日没後の闇を警戒して、早めに遠乗りを切り上げて帰るココネ。
 アルファさんの性格なら「もっともっと先まで行って」、大弱りしてしまう所ですが、その意味では自分の旅はアルファさん型だなぁ…



  第130話    月の輪
 気づけばおじさんも、だいぶ白くなりましたね…

 アルファさんにはロボットとしての機構の違いからか、月の輪が3重に見えているとか。

 僕は白猫といっしょに8年近く暮らしていますが、体の大きさも作りも、見聞きできるものも、価値観すら違う2つの生き物が、それぞれのニーズが合致する事で「いっしょにいることが当たり前」になっている… そんな毎日が、例えようもなく素晴らしいことを、日々実感しています。

 感覚の異なる人とロボットが、見え方は違っても同じ物を見て、空気のように自然に時間を共にしている西の岬

 現実の僕たちの人づきあいもまた、「西の岬」のようにありたいものです。




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