『ヨコハマ買い出し紀行』、記念すべき第1巻です。

三浦半島の南部で、たった1人でカフェを営む、
若い女性の外観を持つロボット『アルファさん』と、
その知人たちの、まったりとゆるい日常の物語…

しかし人間の文明は、温暖化による海面上昇によって、
少しずつ、確実に、海中へと崩れ還りつつあります。

この第1巻では、三浦半島を舞台とした日々をつづりつつ、
作者である芦奈野先生の「物語の軸を探す葛藤」が作中から読み取れます
などとヒネた読み方をしている自分は本当にイヤな読者ですね(笑)






  第0話    ヨコハマ買い出し紀行
 読み切りで掲載された、いわば第0話。

 自宅からバイクで走り出したアルファさんの背景に三浦の山々と海が見えているため、「南」に走っていることが分かります。 黒崎の鼻 をスタート地点とすると、 三戸海岸 に向かっているようですね。 この海岸、実は僕が 三崎口 近辺で最初に訪れた場所なのです。 なんかうれC〜。

 しかし、おじさんのガソリンスタンドのある国道134号線には、『黒崎の鼻』からなら、東へまっすぐ2キロなのに、なぜこんな迂回を??


 P18 で、三浦〜横須賀の「水没マップ」が出てきます。 トーンが貼られている範囲が水没範囲と思われますが、 武山 の西、 武山駐屯地 、そして 天神島 は、すでに水没してしまっているようで個人的にショック。 『天神島 臨海自然教育園』は、飾り気の少ない素朴な良い場所だったのですが…

 1つ不思議なのが、このマップによると、三浦市内から見て最初に国道134号線が水につかっているのが現在の 初声 のあたりなのですが… 『黒崎の鼻』からはけっこう近場なのです。 迂回ルートを通っても、3キロと無い。 なのに、ここに来るまでにアルファさんは、国道134号線をそこそこの距離走っている様子。(P17 に標識あり)
 『カフェアルファ』の所在が『黒崎の鼻』だとすると、どうしてもこの矛盾点が引っかかってしまいます。 だから僕は、読みきりの時点では『カフェアルファ』はもっとに位置していたのでは? と思うことがあるのです。



  第1話    鋼の香る夜
 いきなり見開きで描かれる、『カフェアルファ』近辺と、その上空からの遠景。
 2007年現在、東京に居ながら、すでに三浦が第3の故郷となりつつある自分にとって、ものすごく「くる」風景です。

 第1話ということもあり、今後に関わりそうな伏線がチラチラ見られる話です。

 オーナー(初瀬野先生)からのメモ書きを、大切にフォトプレートに入れているアルファさん。 護身用の『拳銃』。 月琴で奏でられる『中国の夜の歌』

 以降の12年間の連載内容とは外れている部分もややありますが、作者が最初に描くつもりでいた『ヨコハマ〜』の世界が断片的に見え、ファンならではのちょっと趣き深い味わい方もできる話です。

 なにげに、おじさん視点で物語が語られているのも珍しいというか、最初で最後?



  第2話    入江のミサゴ
 ミサゴが初登場します。
 第2話からすでに登場していたことを考えると、芦奈野先生的にかなり思い入れが深かったか、今後の話に大きく絡めていく予定だったのではないでしょうか?

 連載が終了した今、あらためて振り返ってみると… 少しずつ謎をふりまきつつも、『小網代の入江』 に住んでいる不思議な生き物、ぐらいの扱いで終わった感のある「ミサゴ」…
 子供の頃だけに見える(あるいは、見たつもりになっている)妖怪や妖精のような存在に、意図的にとどめられているのかもしれませんね。

 夕立のシーンでは、トタン屋根から滝のように流れ落ちる雨水の描写があります。(P56・57
 関東以北や日本海側の人にはなじみが無い光景でしょうが、局地的に雨量の多い三浦半島・紀伊半島・外房などではたびたび見られる風景です。 しかし近年、日本の気候は全体的に亜熱帯に移行しつつあるそうで、こういう光景が東北・北海道で見られる日が来るかもしれません。 個人的には勘弁願いたいですが…


 ちなみに、mixi 上で『タカヒロに服を着せたのは、アルファさんか、ミサゴか?』という議論がなされた事がありました。

 結論は「ミサゴ」。 タカヒロの鉢巻の結び方が変なのは、ミサゴが衣服というものに慣れていなかったから、との事。 良い着眼点ですね〜。


 そう言えばミサゴは、裸で震えているタカヒロを抱いて、すごくうれしそうにニッと笑っていましたが… あれは、自分同様に服を着ていないタカヒロに親近感を感じて、うれしくて仕方なかったのかも? と、後になって思いました。



  第3話    しましまのごろごろ
 国道134号線のほうから 『カフェアルファ』 に送電線を引いているらしく、直線に並ぶ電信柱が見てとれます。

 アルファさんは、ベッドの中でうっすら笑って『しぶい…』と寝言。 なにを見ていることやら。

 さりげなく、中性洗剤で朝のうがいをしたりも。

 おじさんとの会話で、『動物性タンパク質が消化できない』アルファさんの機構の一端が語られ、先ほどの「うがい」の一件もあわせて、人間と変わりなく見えてもロボットなんだなぁと、しみじみ実感。
 スイカが余ってコヤシにするしかない というセリフは、都内で数千円もするスイカを買う人間には信じがたい話ですが… 地元の感覚てこんなものですよね。

 それにしても、店に訪れたカップルの、女性の髪型…
 「ヨコハマ〜」の物語中で、20世紀終盤の匂いを感じさせる最初で最後のキャラではないでしょうか?



  第4話    雨とその後
 落雷を受けてケガをしたアルファさんが、子海石先生の診療所で治療してもらう話です。

 近くで落雷がおこると、『バン!』という短いが猛烈な炸裂音がしますが、あれは恐ろしいですね。 時々、『カリッ!』という空気を裂くような音を聞くのですが、あれは頭上の雲どうしで放電している音なんだろうか? まだ、音と光景を同時に目撃したことが無いのです。



  第5話    エンドレス町内会
 アルファさんと、地元住民との交流(飲み会)の話。

 酔って不思議な舞を見せるアルファさんですが、あるいはこれが、彼女の根幹にあるスペックなのかもしれませんね。



  第6話    プレ寝正月
 扉絵で、お正月の飾りを準備するアルファさん。 何かがおかしいですが。

 アルファさんがタカヒロと初日の出を見に行った場所は『城ヶ島』
途中で渡っている橋は、 城ヶ島大橋 です。

 引橋交差点から南に向かう道路は半島の背骨のような箇所を走るため、この時代でも水没せず、島まで辿り着けたのでしょう。

 途中で立ち寄った自販機には、よく見ると「缶コーヒー」1種類しか補充されていません。 この話以降に出てくる自販機も、全て同様だったと記憶します。
 一見のどかに見えても、流通・生産は先細り、地方から順に切り捨てられているのかも知れません…

 防寒を甘く見て震えるハメになったタカヒロを、後ろからソッと包んで暖めるアルファさん。 当時はまだ、タカヒロにとってのアルファは「お姉さん的存在」でした。
 タカヒロが逆にアルファを暖める立場になるのは、まだ、ずっと先の話です。

『城ヶ島』の元旦をご覧になりたい方は、こちらへ。)



  第7話    午前2/2
 『第三京浜線』に該当する路線は現代には無いですが、そのものズバリ第三京浜という車道があるので、どうもその跡地に路線を新設したようです。
 運行範囲は『等々力〜保土ヶ谷』間、約16キロ。

 今回は、物語中の時刻がハッキリしているので、ココネの辿った道筋を推理してみましょう。


AM 7:20 『保土ヶ谷』到着。
 軽トラはまだ来ていません。


AM 7:50 『軽トラで出発』。
 ココネが困った顔をしていることから、やや長めに30分待たされたと仮定します。


AM 9:00 『久里浜到着』。
 ココネを後ろに乗せているため、安全上あまり速度を出さず、時速30〜40キロほどでゆるゆる走行したとします。 現東横新道 〜 現横浜横須賀道路を経由して南下し、久里浜市 に到着。 距離40キロ弱。 所要時間は1時間ちょっと。

 軽トラのおじさんと別れた場所が「久里浜」とは明記されていませんが、これ以降「徒歩」で移動するココネが『海からやや離れた廃線の横の道』→『海辺の道路』→『線路の上』という風景の中を進んでいるので、『久里浜付近から廃線(京急)ぞいに南西』→『金田湾を、国道134号線ぞいに南西』→『三浦海岸あたりから廃線ぞいに三崎口』を歩いたと考えました。

 『西の岬』 まで、のべ12キロ! 女の子にはお勧めできない距離です。


AM 11:05 『カフェアルファ到着』。
 2時間ちょっとで到着。 常人の1.5倍の早足。 さすがはプロです。
ココネ、おつかれさま。




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